「障害者5000人解雇や退職」で明るみになった“就労移行支援”の現場をのぞく。“プロレベル”の職人技も
利用者の表情からは職人としての誇りが
AIの隆盛に伴い、一見“単調に見える仕事”の付加価値が下がったかのような言説が語られることがある。 しかし単調な仕事であっても依然世の中に必要であり、またこの世から全て消え失せるわけではないだろう。そして一見単調に見える仕事にも、やり方次第でクリエイティブさを持ち込むことはいくらでも可能である。必要なことは、単調な仕事も複雑な仕事も、一様に“仕事”として尊ぶことではないだろうか。 筆者を一顧だにせず、その利用者の方はまっすぐにラケットに視線を注ぎ作業を続けている。仕事への熱中とクオリティのこだわりに“職人”としての誇りを感じた。 今度は封入作業を続けているグループを見学させてもらった。山﨑さんに促されパッケージの一つをおそるおそる手に取る。化粧品のサンプルが入っている透明な袋だ。ふたの部分はおそろしく真っすぐに合わせられており、気泡が一つもない。 「最近の話ですが、ある店主と話をしたことがあって。就労移行支援事業所に依頼しているという袋を見ると、留め方が汚かったんですよね。店主が言うには『ちょっとよくない出来なので、「障害者が作業しています」と記載しようかと思って』って。職員の確認を経ているはずなのに、そのまま納品してしまっている点に少々疑問を覚えました。『当事業所でも試してみますか?』とお話をして、品質が評価され以降は一貫してうちに発注してくれています」 熱中して真剣に取り組む利用者の方々だが、気が付いたことがあった。山﨑さん含め、職員が指示を出している様子が見受けられない。「うちはプログラムが決められているのと、毎朝ミーティングを開いています。だから利用者が自律的に動くことができるのかもしれませんね」となんでもないことのように語る。
卒業生全員とグループLINEで
テーブルに着いた筆者に職員の方がアイスコーヒーを振る舞ってくれた。職員の定着率も高く、障害者雇用であるストリンガーを除き「全員10年以上勤務しています」というから驚く。また職員同士のみならず、利用者とも信頼関係を築いているようだ。 「前提として、うちは定着支援に期限を設けていません。僕は卒業生とも全員、グループLINEでつながってるんですが、ある卒業生が僕に『ギターを始めようと思っている。ギターを選んでくれ』って言うんです。僕ギターのこと全然わからないのに(笑)。それでもいいから選んでくれと」 最終的にその依頼はギターへの知識不足を理由に辞退したとのことだが、利用者からの厚い信頼が伺えるエピソードだ。 「僕は結婚してないんですけど、利用者の人たちは本当に自分の“子ども”のような感覚です。卒業するときはちょっと淋しいですし(笑)。今度A型事業所を設立しようと思っていて。でも『やってあげよう』、『つくってあげよう』という姿勢は僕は嫌なんです。彼らがやりたいことがあって、そこに近くにただ僕がいる感じでいたい。A型を設立する意味ですが、本当に心底働くことを夢見ていても、障害や症状などで企業が求める就業条件に達することができない人や、超短時間でも働きたい人を見てきました。そういった支援を必要としている人たちから、働ける場を求める声が多かったことから構想が始まりました。 彼らには“力”があります。ここを卒業した後も、自身の力で人生の問題を本当に自然に乗り越えられた、と思ってくれたら、とつくづく思っています」