「早い!便利!助かる!」問屋業界の常識を打ち破るトラスコ中山の戦略
戦略1 「在庫は少なく」は間違い~メリットだらけの大量在庫
埼玉・幸手市にあるトラスコ中山の国内最大級の倉庫「プラネット埼玉」。ここだけで59万種類、658万個という膨大な量の在庫を抱えている。中には工場に貼られる「火気厳禁」の看板やコンクリートを削るドリルなど、現場で使うありとあらゆる物が置かれている。12メートルのハシゴなど、滅多に売れない物まで置いている。 「工事中に『はしごの長さが足りない』『できるだけ早く欲しい』というご要望がある」(中山) 客の要望にすぐに応えられるように在庫を大量に持つ。「過剰在庫は悪」という常識を破り、今も在庫を増やし続けている。その結果、トラスコ中山を頼る会社が増えて取引先は5632社に拡大。便利さが認められ、今ではライバルの問屋からも注文が入ると言う。 「とにかくどんな好みにもしっかり応える。こんな在庫の置き方をしている無駄な会社はあまり世の中にはないですけど」(中山) これだけ在庫を持ちながら商品の廃棄率は約0.1%。ほとんど無駄を出していない。
膨大な在庫を実現するためにトラスコ中山は収納にも力を入れ、最先端のシステムを導入している。例えばピックアップのロボットが動く、売れ筋商品を保管するコーナー。通常は棚の両脇に通路があるが、トラスコ中山はこのスペースをなくし、固めて商品を置く「高密度収納」を実現した。 「非常に収納効率がいいです。トラスコの武器の一つでもあります」(中山) この収納は作業効率も抜群だ。例えば上から5番目の商品を取り出す時は、まずロボットが4番目までの商品を上に引き上げ、脇に置いておく。そして5番目をピックアップし、運搬。つまり、人手をほとんどかけず作業できる。 他にも商品のサイズや出荷頻度によって合計5種類のハイテク収納システムを導入。このやり方で大量在庫を実現しているのだ。
戦略2 早い!便利!助かる!~客を喜ばせる即納システム
大量在庫が生みだす最大のメリットが即納、即納品だ。即納を実践するため、業界では少なくなっている自社物流にも力を入れる。 自前のトラックで配達に向かったのは、金属加工の工具などを扱う、さいたま市の「東京山川産業」。現場から特殊な刃物の発注があり、メーカーではなくトラスコを頼ってきたと言う。担当者は「26ミリの穴を開けるドリルです。午前中に発注すれば午後に納品していただける。本当に早い。メーカーさんに頼むと1、2日かかってしまうので」と言う。 これを可能にしているのが1日2回、同じ取引先を回るルート配送。一見無駄が出そうだが、実は合理的。注文のたびにコストと人手をかけて配送しなくて済む。 午前11時までに注文すれば午後には届き、夕方6時までに注文すれば翌日の午前には届く。このスピードは他の追随を許さない。配送料は無料。電池1個でも届けてくれる。 さらにルート配送だから、納品のついでにコストをかけず返品や修理品を回収できるのだ。「精密機械は梱包を厳重にしなければならないが、梱包せずに配達員に渡せるのでとても助かっている」と言うユーザーもいた。 大量在庫と即納、取引先の便利さを追求する戦略で顧客をガッチリと捕まえたトラスコ中山。厳しいと言われる問屋でありながら、売り上げはこの30年で3倍以上に。創業時、数人だった従業員は今や3000人になった。 幹部を前に、中山は大切にしている思いを語った。 「常識の範囲内でやっていたら常識は超えられない。若い皆さんには新しい常識にチャレンジしてもらいたいと思います」