「早い!便利!助かる!」問屋業界の常識を打ち破るトラスコ中山の戦略
現場の悩み解消で絶好調~苦難の業界でも儲かる秘密
現場の悩みを解消してくれるという台車がある。一般的な台車と比べて、動かした時の音が抑えられている。ユーザーは「以前は騒音のクレームがあったが、この台車にしてからはない」と言う。 【動画】膨大な在庫を抱え、すぐに配送!客のニーズに応える独自戦略
静かさの秘密はタイヤ。衝撃を吸収する特別な樹脂を使っている。さらに底板をわざと隙間だらけにし、音を反響しにくくした。重さは一般的な台車より4キロほど軽い。静かで持ち運びも楽と、累計60万台を売る大ヒットとなった。
現場が喜ぶ商品を作る会社、トラスコ中山の本社は東京・港区の新橋にある。 この日、行われていたのは新商品開発会議。東京PB商品課に来て2年の田部友理がプレゼンしていた。彼女が提案したのは高所作業などで職人がベルトと工具をつないでおく「安全ロープ」。現行品は10年前の商品。ロープがコイル状になっていて絡まりやすい欠点があった。ユーザーからは「力を入れないと伸びないので疲れやすい」という声が上がっているという。田部が考えたのはストレートなゴムタイプの新製品。絡まりにくく、今までより少ない力で伸びるようにした。 説明を聞いていたひとりの男性が何回も引っ張り始めた。「これ、伸びる距離が短くない?」と言いながら伸縮性を入念にチェック。さらに金属の留め具にも「手袋をしていたら操作しにくい」と、ひと言。田部は職人用の腰ベルトも改良しようとしていたが、これにも鋭い指摘が飛ぶ。 「これは水洗いOK?職人さんは夏に汗をかくから『臭い』となる。できるなら『洗濯可』と書かないといけない」
現場思いの意見を次々と出しているのがトラスコ中山社長・中山哲也(65)だ。 「腰ベルトに工具をつけて社内をずっと歩き回ってみないと。それくらいすれば『もう少しこうすればいい』とわかる。使う身になって考えないといい商品はできない」(中山)
トラスコ中山はこのように自社ブランドの商品も作っているが、ビジネスの本丸は問屋業。全国のホームセンターや商社に部品などを卸すBtoBの企業だ。多くの業界で問屋が減るなか、売り上げは2600億円に達する。 「人が思いつかないことをやる、人がやらないことをやるのがビジネスの“一番の鉄則”かな」(中山)