上皇陛下執刀医・天野篤 動脈硬化に有効な治療はないが、唯一の<予防策>となる習慣が…「座りすぎ」にも注意
◆運動は体の筋肉量を増やし、臓器への血流も増やす 有酸素運動や日常生活でこまめに動くことは、筋肉量を増やすうえでも大事です。 じつは血管も筋肉のひとつ。心臓にとって、全身の筋肉量はきわめて重要といえます。 一般的に筋力は加齢に伴って衰えていき、加えて日頃から運動をせずにいると全身の筋肉量はますます減ることになります。 筋肉は心臓が送り出す血液の“受け皿”なので、筋肉量が減ると血圧の調節力が低下します。 そうなると、重要な働きをしている臓器への血流を確保するために心臓はフル回転を強いられ、負担が増大するのです。 逆に筋肉量が増えると筋肉の血液量も増えるため、血圧の調節が自律神経も関与してバランスよく行われ、さらにはインスリン抵抗性が改善されたり、善玉のHDLコレステロールが増えたり、動脈硬化ひいては心臓疾患の予防につながります。 年をとっても筋肉量を落とさないためには、日常生活で意識して歩く時間を増やすことが有効です。 といっても、高齢になると外出するのはおっくうですし、目的もなく歩くのは難しいという人がほとんどでしょう。 日常の買い物の際などに、少し遠いお店に足を延ばすくらいしかありません。
◆日常生活のなかで「いかに歩くか」の仕掛けをつくる そこで、「日常生活でいかに歩く場面を増やすか」という観点に立ったさまざまな技術の進歩が期待されます。 たとえば、スマートフォンの充電です。 今はパッドの上に置くだけでワイヤレス充電できるものが登場していますが、これをさらに進化させ、町中に設置された“充電道路”の上を一定時間歩くと、スマートフォンの充電ができるような設備が開発されれば、高齢になっても「必要だから歩く」人が増えるでしょう。 ほかにも、スマートフォンに搭載されている位置情報などを利用して、歩いた距離や時間に応じてポイントを付与し、買い物などに使えるアプリが今よりもっと充実すれば、中高年や高齢になっても歩きたがる人が増えるのは間違いありません。 必要だから歩く人が多くなればなるほど、結果的に心臓や脳などの動脈硬化性疾患、糖尿病、腎機能障害による人工透析の患者さんが減って、右肩上がりで増え続けている医療費の抑制につながるからです。 動脈硬化が進んで病気になったから治すのではなく、病気にならないように動脈硬化を予防することが、何より大切で、ひいては健康寿命の延長につながっていくと考えています。 ※本稿は、『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)の一部を再編集したものです。
天野篤
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