“対IS戦線” トルコのロシア機撃墜でプーチンは戦略変更か
「仲間」にはなれないロシアと米仏
プーチン大統領は17日にフランスのオランド大統領と電話会談し、軍や情報機関の連絡調整を強化することを提案。対IS戦線でフランス側も合意しました。プーチン大統領はさらに、地中海に展開しているロシア海軍のミサイル巡洋艦を、フランス海軍空母に協力させることも公表しています。 さらにロシア側からは、ロシアとフランスが共同作戦を行うことになったかのような情報が盛んに流されており、それを多くの西側メディアがそのまま報じています。しかし、共同作戦の話は、あくまでロシア側から出てきた情報であることに留意する必要があります。 実際、フランス側は、作戦にあたって仏露両軍の航空機間でトラブルがあってはまずいので、作戦予定に関して連絡・調整することは必要との考えですが、同盟国のように共同作戦を実施するとは言っていません。やはりアサド政権の処遇に関し、両国は正反対の立場であり、「仲間」にはなれないのです。 アメリカのオバマ大統領も、ロシアのフランスへの接近には警告を発しています。オバマ大統領は、ロシアの対ISへのシフトは歓迎しつつも、反IS系反政府軍に対する攻撃には明確に反対し、ともに戦う同盟軍同様な関係になることは、明確に否定しています。
誤算だった? トルコとの決定的な対立
このように、ロシアが自分たちが有利になるように米仏に揺さぶりをかけている状況だったのですが、今回、トルコと決定的に対立することになったことで、その戦術は難しくなりました。 トルコはNATO加盟国ですが、ロシアとしてはNATOとの対決という局面は避けたいところ。欧米諸国とは緊張緩和に努めつつ、トルコに対しては強い態度で臨むということになります。当面、ロシアもトルコも事態の拡大は望まないでしょうが、プーチン大統領がこのまま言葉だけの非難で矛を収めるかというとわかりません。アメリカのオバマ大統領はおそらくトルコに一方的に肩入れしてロシアを追い詰めるということはしませんから、ロシアはそんなアメリカの出方を見越し、なんらかの実力行使をしてくるでしょう。 当面、ロシアとしては、シリア北部の自らの優位を確保し、そこにNATOの影響力が及ぶのを避けるため、ロシア軍機によるトルコ国境ギリギリの空爆をさらに強化しそうです。結果、同地域の住民がますます酷いロシア軍機の空爆にさらされ続けることになりそうです。
■黒井文太郎(くろい・ぶんたろう) 1963年生まれ。月刊『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長等を経て軍事ジャーナリスト。著書・編書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』『北朝鮮に備える軍事学』(いずれも講談社)『アルカイダの全貌』(三修社)『ビンラディン抹殺指令』(洋泉社)等