“対IS戦線” トルコのロシア機撃墜でプーチンは戦略変更か
なかでもロシアが盛んに秋波を送ったのが、パリ同時テロの被害国フランスでした。フランスはテロ直後からすでに空爆を強化していて、11月15日から連日、ISの首都であるシリア北部のラッカへの空爆を続けていました。空母も東地中海に向かわせ、同23日からは艦載機による空爆を開始しています。 空爆の標的は、ISの司令部や武器庫、訓練所などです。フランスは今年9月からシリアでの空爆に参加していますが、パリのテロを受けて、いっきにその規模を拡大したといえます。 ロシアはこうしたフランスにまるで歩調を合わせるように、それまで消極的だったISへの空爆を急に強化しました。同17日には初めてTu160戦略爆撃機などを出撃させ、ラッカなどに大規模な空爆を行っています。
シリア軍事への介入の非難を抑える狙い
このロシアの判断は、自分たちがシリアで行っている反政府軍への攻撃に対し、欧米が介入してくることを阻止する狙いがあることは明白です。ロシアとしては、対IS戦線で欧米諸国と協調することができれば、シリアでの軍事介入に関して、欧米諸国からの非難が抑制されることが期待できます。 前述したように、現在、ロシアはアサド政権およびイランと協力し、反IS系反政府軍を攻撃していますが、その際、一般の民間人の被害を一切考慮せず、民間の居住地に対して徹底した空爆を行っています。そのため、一般国民の犠牲者が急増するとともに、新たに多数の避難民が生まれる状況になっています。 ロシアとしては、自分たちが行っているそうした非人道的な軍事行動から国際社会の目を逸らし、国際社会の非難や介入を阻止している間に、反IS系反政府軍に打撃を与え、劣勢だったアサド政権を立て直すことが、当面の目標となっています。
ロシアが最優先するアサド政権の温存
実際のところ、ロシアにとってもっとも優先すべきは、自分たちの中東地域での影響力を確保するために、反欧米陣営の事実上の同盟者であるアサド政権を温存することです。ISは、自国内にチェチェンなどのイスラム武装勢力を抱えるロシアにとっても敵にはなるのですが、IS自体はロシアにとってはさほどの脅威ではなく、むしろロシアの競争相手である欧米主要国にとっての脅威度のほうが高いといえます。 そのため、IS討伐は欧米主要国こそが喫緊の課題であり、ロシアにはまだ余裕がある状況です。ISが壊滅すれば、次はアサド政権への国際社会の非難や圧力が高まるのは必至ですから、ロシアにとっては、ISはある程度勢力を抑えられていれば、むしろ存在しているほうが好都合でもあります。 こうした背景から、これまでロシアは、対ISを口実にシリアに軍事介入しつつも、実際にはISへの攻撃はお座なり程度で済ませ、アサド政権への実際の挑戦者である反IS系反政府軍への攻撃に総力を上げていたわけですが、ロシア機爆弾テロとパリ同時多発テロを利用し、欧米の懐柔を図ろうとしているのです。