GXで疲弊したドイツの「惨状」が想像以上にひどい…日本も他人事ではいられない「航空業界の異変」
異様に高いドイツの空港使用料
航空チケットの値上がり要因は他にもある。例えば、航空チケット税(国税)が24年の5月から約20%も値上げされたこと。6000km以上のフライトで言うなら、4月までは59.43ユーロだった航空チケット税が、今は70.83ユーロ。これにより、1月に上がったばかりのチケットは、5月に再度値上がりし、それに加えて、燃油サーチャージ(正式名は、燃油付加価値運賃)も上昇中だ。 まだある。ドイツでは、空港の使用料が異様に高い。これが災いとなって、外国の多くの航空会社がドイツ路線を敬遠し始めている。 ヨーロッパで搭乗者数1位を誇るアイルランドの格安航空会社、ライアン・エアも、つい先日、来年の夏から22のドイツ路線を縮小すると発表した。これにより180万席が減少し、キャパシティーが12%削減する予定だ。 航空使用料がどれだけ高いかというと、例えばエアバスA320(中型ジェット旅客機)が発着する際、スペインのバルセロナ空港は660ユーロ、ロンドンのヒースロー空港は2311ユーロ、羽田は22万円(現行レートで換算すると1300ユーロほど)だが、フランクフルトでは4410ユーロと破格だという。5年前と比べると2倍だ。 格安空港は、ビジネス客よりも、一般の観光客でもっているため、航空運賃をどんどん値上げするわけにもいかず、この状況ではドイツから撤退したくなるのも無理はない。ライアン・エアだけでなく、ハンガリーのWiss Airや英国のeasyjetもすでにドイツ航路を減らしているという。
広められた“脱炭素教”のドグマ
思えば、ついこの前までは、ドイツ各地の小さな空港からヨーロッパ中の観光地にチャーター便が飛んでいた。また、遠距離便でフランクフルトやミュンヘンに到着すれば、そこで国内線に乗り継いで最寄りの空港まで飛ぶことができたが、今では乗り継ぎ便が減っていたり、無くなっていたり…。 近距離フライトでCO2を撒き散らすのは罪悪であるという“脱炭素教”のドグマがせっせと広められてきた結果、格安航空会社だけでなく、既存の航空会社までが、近距離フライトを堂々とは飛ばせなくなってしまっているらしい。 つまり、旅行好きのドイツ人にしてみれば、値段は上がるわ、便数は減るわ、最寄りの空港は無くなるわで、踏んだり蹴ったり。当然、皆が次第に旅行を控え、出張の回数も減る。緑の党とすれば計画通りだろうが、これではドイツはいずれ航空過疎地になってしまう。 33年前、ソ連の崩壊で冷戦が終了し、人と物とお金が急速に動き始めた。航空チケットは安くなり、ドイツでは、一昔前までは庶民にとって高嶺の花だった航空チケットが、場合によっては鉄道よりも安くなった。 本来ならば、鉄路にせよ、道路にせよ、空路にせよ、人間の移動の頻度と物の輸送量は景気に比例するものだ。つまり、ドイツに網の目のように張っていた航空路線は、いわば繁栄の象徴だった。だからこそ当時の私は、世界は少しずつ自由で豊かになっていくと本気で信じていたのだ。 ところが、今、ドイツの政治家たちはせっかくの富を、一つ、また一つと確実に潰していく。すでに基幹産業が国外に脱出し、国力が急激に落ち始め、困窮した産業界は、リストラや工場閉鎖を打ち出し、それに反発した労組が、苛烈なストライキで対抗しようとしている。そして、無能なショルツ首相は、有効な解決策を何一つとして見出せないまま、それを平然と眺めている。 勤勉な国民性と教育の高さで世界をリードしてきた誇り高き経済大国ドイツは、一体どこへいってしまったのか!?