「痩せれば速く走れる」「生理がないほうが得」 高校3年間ほとんど月経なし、大学進学後に過食症になった理由
勝つことや記録を出すことを目的に、過度な減量を続ける若い選手たちがいる。無理を続ければ、心身に支障をきたすのはもちろん、女子の場合は無月経に陥るケースもあるという。AERA 2024年5月27日号より。 【図を見る】女性アスリートの体重コントロールに関する実態調査はこちら * * * 日頃、ジョギングや球技をしたり、学生時代には運動部でスポーツに打ち込んだりという人もいるだろう。多くの人が触れたことのあるスポーツ。その基本理念を定める「スポーツ基本法」には、こう記されている。 〈スポーツは、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵(かん)養等のために個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動であり、今日、国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む上で不可欠のもの〉 つまり、豊かで健康な生活を送るためのツールのひとつとしてスポーツがあるはずなのだが、若年層の部活動においては長年、その逆方向に進んでいるかのような傾向があった。学校や競技団体という“閉ざされた世界”の実態に警鐘を鳴らす動きが広がっている。 ランニング学会理事長で、2000年のシドニー五輪女子マラソン金メダリスト・高橋尚子さんを大学時代に指導した経験のある大阪学院大学の山内武教授は、こう指摘する。 「勝つこと、記録を出すことが第一の目的で、健康をそれほど意識しない風潮が一部中高生などの若い選手の間にも蔓延しています。大学への推薦を取るために、ある程度無理をすることは致し方ないという価値観もあると思います。ただ、体ができあがっていない時期に無理を続ければ、一生健康を害することにつながる。それが今、度が過ぎているのではないでしょうか」 山内教授によれば、長距離走のパフォーマンスには有酸素性パワーが大きく影響する。その指標は、1分間に体重1キロあたり取り込むことができる“最大酸素摂取量”だ。
「同じ量の酸素を取り込むと仮定して、体重が増えれば最大酸素摂取量は低下し、体重を減らせば、相対的に最大酸素摂取量は高まります。車で例えるならエンジンの排気量に相当します。排気量が大きなトラックよりもスポーツカーのほうが速く走れるのは車体重量が軽いから。人も同じように体重を落とせば速く走ることが可能という結論に至るわけです」 体重を落とした場合、特に健康被害に陥りやすいのは思春期の女子だ。長距離走などの持久系スポーツに加え、新体操やフィギュアスケートといった審美系スポーツで注意が必要だという。 「体重、あるいは体脂肪率が影響する競技です。思春期の女性は中学生以降、第二次性徴が始まり、体脂肪がつくというのが自然の発育。その段階になれば、通常であれば月経が始まります。ただ、長距離走やフィギュアスケートなどは体重や体脂肪が増えるとパフォーマンスが落ちる競技なんです。そのために、指導者から体重を制限することを課され、結果、初経が非常に遅くなったり、月経が止まってしまう無月経に陥ります」(山内教授) ■「痩せれば速く走れる」体重に対する強迫観念も そんな危険性があるにもかかわらず、部活動の現場では、徹底した食事制限、体重管理が日常的に行われている。 かつて強豪校の陸上部に所属して全国高校駅伝への出場経験があり、現在はランニングクラブを主宰する関東在住の40代の女性は、学生時代の経験をこう振り返る。 「『痩せれば速く走れる』という価値観が暗黙の了解であって、皆が痩せていて当然だという空気でした。実際に軽いと速く走れるので、常に頭の片隅で自分の体重を気にしていました」 高校時代の3年間は寮生活で、食事は1日3食が提供されていたが、体重が変動しやすいタイプだったため、人一倍体重管理には気を使っていた。 「毎日体重を記入しなければならず、体重の変動に頭を縛られていました。本来の目的は競技力を上げることだったはずなのに、いつからか痩せることが目的になってしまっていったんです」