戒厳令が宣布されても「韓国すごい」「米国人や日本人より民度が高い」と誇る韓国人
マルクスばりの闘争史観
――では、韓国は今回の弾劾騒ぎを機に、本当の先進国に進化するのでしょうか? 鈴置:それは難しいと思います。現在、韓国で語られている議論はいずれも問題の本質を外しているからです。ほとんどの人が保守派の権威主義的な体質に戒厳令の原因を求めている。 背景にはマルクス主義者ばりの闘争史観があって、現代史を「権威主義的な保守勢力に進歩派が戦いを挑み民主化を進展してきた」との構図で見ている。 しかし、戒厳令の宣布を素直に見れば、尹錫悦大統領が憲法をいとも簡単に破ったという単純な行為に過ぎません。韓国が法治国家なら、どんなに権威主義的な大統領だろうと国会に兵を派遣して戒厳令の解除決議を邪魔しようなどと考えつかないでしょう。 法律を軽んじるのは左派も同じです。2020年、文在寅(ムン・ジェイン)政権は1年間で3回も検察への指揮権を発動しました。これだけでも大変なことですが、指揮権発動を批判する人がほとんど出なかったのです。 指揮権については『韓国民主政治の自壊』第2章第1節「三権分立の崩壊が生んだ尹錫悦大統領」で詳述しています。 今回の弾劾騒ぎに関しても「進歩派に政権交代すれば問題は解決する」あるいは「保守が権威主義から脱する必要がある」との意見ばかりで、法治水準の低さを指摘した論説は見たことがありません。 大統領の権限が強すぎるのが原因と主張する人もいます。先に引用したキム・ヨンス教授もその一人です。ただ、こうした論者も「法治の欠如」には言及しないのです。
緩い地盤の上に立つ民主主義
――韓国はもともと民主国家ではないのですね。 鈴置:北朝鮮や中国と比べれば民主主義国家と言えるでしょうが、少なくとも日本や欧米のような民主主義国家ではありません。これらの国では「法治」の基盤の上に「言論の自由」や「公正な選挙」という民主主義の仕組みが働いている。 韓国は基盤が固まっていない。そこで何かあると、例えば左右対立が激化すると、民主主義の仕組みが簡単に揺らぐ。韓国人は「日本の民主主義の水準を超えた」と誇りますが、先進国の政治システムを上辺だけ真似したに過ぎません。 ちなみに、韓国の民主主義の後退を描いた『韓国消滅』第2章の見出しは「形だけの民主主義を誇る」です。システムの構造的な欠点に気づかない以上、それが修正されるはずがありません。 ――なぜ、欠点に気づかないのでしょうか。 鈴置:李朝以来、法治を軽んじる儒教国家だったからです。そのうえ、最近の韓国人は「世界に冠たる民主主義を実現した」と信じ込んだ。戒厳令が出ても「韓国すごいぞ!」と叫ぶ人までいるのです。そんな人たちは我が身を鏡に映したりしません。