奇抜な半円形の屋根には深い理由があった…都心の森と隣り合う100坪の土地に立つ医院併用の二世帯住宅
美しい森の景色をより印象的にフレーミングする半円形のプロポーション。一見、奇抜とも思える形ですが、決してデザイン先行で生まれたものではありません。敷地の特性や家族の居住性を丁寧に読み解く、建築家・井川充司さんならではの知恵が結晶した住まいです。 【写真集】半円形の屋根をもつ医院併設住宅。ユニークな形の理由は?
森の景色を印象的に見せる半球体の天井と壁
青々と茂る木々を目前に、遠く新宿や渋谷のビル群まで視線が延びていく。この借景を一層際立たせているのが、額縁のように景色を切り取るアール形状の天井と壁です。しかし景観を生かすだけなら、シンプルに四角い開口部を大きく取ればよいはず。両端を絞り込んだユニークな形のプランは、どのように導かれたのでしょうか。
北側に広がる大きな森が借景
敷地は東京都心部、利用者の多い駅前に位置しています。東側には高架線路が走り、南と西側は建物が隣接。一方で、最も特徴的だったのが北側に広がる大きな森です。「都市部では珍しい自然環境を最大限に享受することがプランの肝となりました」と、設計を担った井川充司さんは振り返ります。 先代が移り住んだ約100坪の土地。将来は孫の開業を願っていたといいます。計画は、まさにその夢を叶えた医院併設の二世帯住宅。1階がクリニック、2階がお母さまの居室、そして3階に建て主である子世帯のメインスペースが配置されています。
騒音や視線も遮るアール壁
アール形状の空間を設けたのは3階のLDK。3階まで上がれば前面道路の人通りと距離を置き、景色に大きく開くことができます。しかし、電車の騒音や周辺建物からの視線を遮るには、テラスを含めて空間をすっぽりと囲い込む必要がありました。 さらに難題は、景色があるのは北側だということ。建物が大きくなればなるほど、せっかくの緑に自身の影を落としてしまう…。そこで井川さんがたどり着いたのが、建物の角を前後左右なだらかな曲面に削っていくという発想です。 太陽の動きによる影の出方を何度もシミュレーションし、正面の森はもちろん、近隣への日照にも配慮。その結果、室内から望む北の森は日を浴びて輝く最も美しい状態が楽しめ、また遮音が主な目的だった囲い込む壁は、包まれるような居心地を内部にもたらしています。