今も「世界最高リムジン」は過言じゃない! ロールス・ロイス・ファントムV ジェームズ・ヤング(1)
ボディ製造技術で世界をリードした英国
馬車から自動車へのシフトが始まった時、フォーマルでエレガントなボディ製造技術で世界をリードしていたのは英国だった。しかし時代は過ぎ、1992年にはロールス・ロイス・ファントムVIの製造が終了。デイムラーDS420も、同年に歴史へ終止符を打った。 【写真】優雅で機能的 ロールス・ロイス・ファントム 現行型と最新EVのスペクターも (135枚) その原因はいくつかあるが、最大の1つといえたのは、維持の手間が掛かることだろう。安全性が重視されるようになり、型式認証の取得も難しくなる一方といえた。 アルミニウムと木を素材に、優雅なフォルムを創出できる職人の数は減少傾向だった。完成までに数か月を要し、コストは増大。必要な機械や道具を維持するのに、充分な受注を得るのも容易ではなかった。 クルマは、世代交代でセパレートシャシー構造からモノコック構造へ変化してもいった。これみよがしな高級車へ向けられる視線が冷たくなる中で、全長が6mもあるリムジンを欲する富裕層は減っていった。 ショーファードリブン・カーの需要自体も、縮小していった。ロールス・ロイス・シルバーシャドーの運転が楽しいことへ気が付き、お抱え運転手を雇う必要性を感じなくなったオーナーは多かった。
高度な職人技を強みとした工房、コーチビルダー
今回取り上げるロールス・ロイス・ファントムVは、直列8気筒エンジンを積んだファントムIVの後継車として開発。1959年に販売が始まり、合計516台が提供されている。 1955年から、プロジェクト・サイアムという名で設計はスタート。1947年のロールス・ロイス・シルヴァーレイスのような、フォーマル・リムジンが目指された。 そのボディ製造を請け負ったのは、高度な職人技を強みとした工房、コーチビルダーだ。 大半はパークウォード社か、合併後のマリナー・パークウォード社が請け負った。 ロールス・ロイス・シルバークラウドIIの技術を発展させ、シャシーには旧式なドラムブレーキとリジットアクスルが採用されていたものの、エンジンは新設計。オールアルミ製の6.2L V型8気筒で、「充分な」と主張される最高出力を発揮した。 ボックスセクションのフレームは、1955年のシルバークラウドI譲り。クロスメンバーが追加され、21インチ(約533mm)長い、3696mmのホイールベースが与えられた。V8エンジンは全長が短く、後席や荷室の空間を広く確保することができた。 リアアクスルを除く基本的な技術仕様は、同じく1959年から提供されたシルバークラウドIIやベントレーS2と共有。V8エンジンにはSUキャブレターが2基載り、パワーステアリングが標準装備。トランスミッションは、自社製の4速オートマティックが組まれた。