箱根駅伝2025 優秀な主務がいるチームは強い 創価大OB・吉田正城さんが箱根を通して学んだこと
【監督同様に運営管理者から選手に声かけ】 チームのことだけではなく、次代の主務を育てることにも苦労があった。2年時は自分のことで精一杯で、仕事の要求をされても、誰に何を振って、まかせればいいのかわからない。考え方も異なり、ぶつかることもあった。 「今思うとそれもいい経験なのですが、当時は大変でした。特に2年の頃は、下級生の育成と同時に、三大駅伝の予定の組み立てをしつつ、授業もフルに入っていましたし、夏合宿も日々の準備や練習でパンク寸前になったんです。そのため、9月頃に一度、監督に『主務を辞めたい』と伝えたことがありました」 一般学生が送る楽しいキャンパスライフ、バイトやデートなど、選手と同様にいろいろなものを犠牲にする覚悟を持って主務の仕事に取り組んでいたが、それでも辞めたくなるほどの激務が続いた。だが、この苦しい経験があったからこそ、3年時、4年時と信頼される主務に成長することができた。 箱根駅伝に向けては、用意周到に準備していく。エントリーメンバー16名が出揃うと、選手の付き添い、給水係の希望を取り、計測員や応援などを各区間に割り振っていく。吉田さんはこうした準備の手順を青山学院大や駒澤大など他大学の主務仲間から教えてもらい、生かしてきた。 「例えば、全日本大学駅伝の時の行動予定は、青山学院大と駒澤大のものをうまくミックスして作りました。各大学の主務はライバルですけど、主務として箱根を乗り越える同士、仲間でもあるので、いろいろな話をするほど仲がいいんです。」 箱根当日の一番の仕事は、運営管理車に乗り、監督のサポートをすることだ。乗車前に軽食をとり、トイレを済ませる。持ち込むものは個人や歴代の記録のリスト、行動スケジュールなど。(タイム差を測る)ストップウオッチは目視で押すのと、テレビ中継を見て押すのとでは時差が生じるのでふたつ持った。運営管理車からは監督だけでなく主務も選手に声をかけるが、その内容やネタも事前に考えておく。 「これは監督も考えていて、事前にそのメモをチラッと見たら、目標タイムや定点観測のタイムの他に(各選手の)好きなアイドルとか書いてあるんです。これは負けられないと思い、いろいろネタを集めました。それを僕もマイクを通して選手に伝えるようにしていました」 吉田さんが選手に声をかけた際、すごく印象に残るシーンがあった。 「昨年卒業した嶋津(雄大)(現・GMOインターネットグループ)さんは、ホメて調子に乗せるとスイッチが入ったように走るんです。4年の時は4区を走ったのですが、3年時に区間賞を獲っており、最後の箱根でも獲ってほしかったので、『嶋津さん、最後の箱根駅伝、箱根のヒーローになりましょう』と声をかけました。あとで『声かけしてもらい、すごくやる気をもらえた』と言われて、すごくうれしかったですね」 吉田さんが主務の時代、創価大は2022年が7位、23年、24年はともに8位に終わった。4年の最後の箱根が終わり、エレベーターで監督とふたりきりになった時、「4年間、シードを獲れるように頑張ってくれてありがとう」と声をかけられた。 「あまりそういうことを言わない監督なので、すごく感動しましたし、やりきったなと思いました。3年間、緊張が解けることは一度もなかったんですが、その時、初めてすべて終わったと安堵しました」