「ドイツにとってユーロ安すぎ」メルケル首相発言の波紋と今後のECBの動き
ドイツのメルケル首相は2月20日、欧州中央銀行(ECB)の金融政策について意味深長な発言をしています。 「ドイツよりもポルトガルやスロベニア、スロバキアなどに合わせて策定されている。もしドイツマルクが存続していれば、現在のユーロ相場と異なった水準にあったのは間違いない」として、目下のユーロ相場がドイツにとって低すぎる(≒行き過ぎたユーロ安)という趣旨の見解を示しました。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)
メルケル首相の発言は、ECBの金融政策に影響を与えるのか?
一般的にドイツのように大きな輸出産業を有する国では、通貨安によって国際競争力が高まるため、首相自らがそのような発言をすることは滅多にありませんが、こうした発言が飛び出したことは、現状のドイツ経済にとってECBの強力な金融緩和が馴染まなくなりつつあるとの認識が政権内部で広がっていることを浮き彫りにしています。(ドイツにとって)行き過ぎた金融緩和が過剰投資、すなわちバブルを招くとの含意があったのかもしれません。 メルケル首相は「ECBの独立した金融政策に関わる問題で、独首相が影響をおよぼすことはできない」として、ECBの政策に“口出し”することはない旨を表明していますが、ドイツ経済の強さが際立つなかで今後、ECBおよび域内との間で不協和音が生じる可能性は否定できません。
景気回復中のドイツ
ECBは、消費者物価の上昇率を2%(もしくは2%をわずかに下回る水準)に設定し、それを達成するために「量的緩和+マイナス金利+社債購入」という強力な金融緩和策を推し進めています。日本が経験したようなデフレ経済を回避すべく、採用可能な政策を総動員した結果が現在の政策パッケージです。 ここでドイツの消費者物価に目を向けると、総合インフレ率が2%近傍まで伸びを高めていることが分かります。直近の数値はエネルギー価格反発、ベースエフェクト(比較対象となる前年の値が低いため、今年の数値が高めに出る)によって誇張されているとはいえ、さすがにこうした状況下での「マイナス金利+量的緩和」は正当化されにくいでしょう。 経済の体温である物価がドイツでは適正値に近づいているので、これ以上の金融緩和は悪影響を与える可能性があるとの懸念されるのは自然な流れといえます。また、最近はコア物価(食料・エネルギーを除いたベース)がわずかながら加速基調にあり、このことは失業率が低下するなかで賃金上昇圧力と物価上昇圧力が同時に芽生えつつあることを示唆しています。