富士山を望む300坪の敷地に建築家が設計したのは、わずか24坪の贅沢すぎる別荘。小さくても高級感が漂うのはなぜか
標高約1000m、八ヶ岳の高原エリアに立つ「Il Terrazzo di Yatsugatake」は、富士山を一望できるコンパクトな別荘です。設計を手掛けた建築家の前田康憲さんは、素材や家具、ディテールを追求したこぢんまりとしたワンルームを設計。富士山を望む大きな窓、暖炉やアウトドアオーブンのあるテラスも備えています。 【写真集】富士山を望む1000㎡の敷地に立つわずか25坪の贅沢な別荘
家族と過ごすための小さな別荘
抜けるような青空の下に佇む、コンパクトな平屋建ての建物。重厚感のある石壁が続く長いアプローチを進み、扉を開けるとその先には美しい富士山が姿を見せる――。 住み手のSさんは、10年近くの月日を経てようやく、かねてから理想に描いていた富士山を望める土地に巡り合いました。建築家の前田康憲さんにSさんが出した要望は、週末を家族とゆっくり過ごせるこぢんまりとしたワンルームの別荘だったそう。
富士山に向けて大きな窓を設置
そこで前田さんが提案したのは1000㎡という広大な敷地に対して居住空間はわずか80㎡というコンパクトなプラン。傾斜地のいちばん高い位置に配置した東西に延びる長方形の建物は、富士山を望む南側に幅6mの大きな窓を設置しました。 浴室以外はオープンなワンルームという大胆なプランで、東側にキッチンとダイニング、暖炉を挟んでリビングとベッドスペースが1つの空間にまとまっています。 また、テラスは調理も楽しめるアウトドアオーブンや屋外家具など、多彩な過ごす場所を用意。素材には室内と同じベージュのタイルや杉板張りの天井を用いることで内外の連続性を高め屋外空間を“もうひとつの部屋”のように仕上げています。
高級感漂うインテリア
オークや石英岩などの自然素材を多く取り入れた温かみのある室内は、一歩足を踏み入れるとその密度の高さに驚かされます。各素材の持つ力を存分に引き出しながらも圧迫感を感じさせず軽やかなのは、天井と壁の接面に配した高窓の効果によるもの。 細い2本の鉄骨で天井を支えることで浮遊感のある屋根を演出しつつ、窓の先に広がる隣地の白樺の緑が空間に彩りを添えています。 また、もう1つこの空間の高級感を引き上げているのが室内のインテリアです。モルテーニやモーイ、屋外家具ブランド、バンダムのベッド、バング&オルフセンのテレビなど、すべて前田さんが家具や機器を選び、住み手と共に話し合って決めたもの。 これまでの作品でも前田さんは可能な限り家具も一緒にプランニングしているといいます。「素晴らしい家具は生活をもっと楽しくしてくれるものです。暮らしを始める上で必要不可欠な存在ですから、建築だけでなくインテリアも含めて心地よさを考えますね」と前田さん。
スモールラグジュアリーな空間
美しい景色や、光や風といった周辺環境がもたらす魅力を巧みに取り入れるだけでなく、そこで人が過ごすことで起こる生活にも目を向け、丁寧につくり上げた建築――。 この別荘には規模だけでは測ることのできない豊かさがあふれています。