「福田村事件」史実と異なる映画に憤慨 誤解を解くために語り続ける「この現場で起きたこと」 #ニュースその後
関東大震災直後の 1923年9月、福田村(現在の千葉県野田市)で起きた「福田村事件」。子どもや妊婦を含む9人が自警団に殺された。100年の節目を迎えた昨年は、同名の映画が公開されるなど事件が広く知られる機会となった。人権教育の研修などで現地を案内する同市の市民団体代表の市川正廣さん(80)は「関心が高まった」と歓迎する一方、「フィクションと史実の区別が付かない映画が誤解を生んだ」と史実を語り継ぐ難しさをかみしめる。保存会と遺族らは9月6日、101年目の命日に合わせ、事件現場近くに石碑を建て「未来に伝える」誓いを新たにした。(デジタル編集部・伊藤幸司)
未来への伝言 石碑に刻んだ福田村事件
「過ちを繰り返さぬよう真実を伝え続けます」 同市の市民団体「福田村事件追悼慰霊碑保存会」が開いた追悼行事。犠牲者が亡くなって101年となった6日、現場近くの霊園に新たな石碑が披露された。 碑文には「社会不安の中、さまざまな差別が複合して事件は起こりました」との概要や、風化させない取り組みの必要性を訴える文言を刻んだ。 遺族関係者10人を含む約40人が参列。市川さんは「私たちが事件を忘れず、真実を未来への伝言として伝えていく。そういう思いで建てることができた」と感慨深げに語った。 霊園には21年前に建てた「関東大震災福田村事件犠牲者追悼慰霊碑(墓碑)」があるが、墓碑を兼ねているため、事件を説明する文はなかった。昨年の100年の節目を契機に慰霊碑を訪れる人が増えたこともあり、新設した。
「福田村事件」映画が招いた"誤解"
福田村事件は関東大地震から5日後の1923年9月6日に発生した。香川県から薬の行商で福田村を訪れ、茨城県側に向かおうとしていた男女15人が、同村と隣の田中村(現在の柏市)の自警団に襲われた。2歳、4歳、6歳の子どもや妊婦を含む9人が殺され、遺体は近くの利根川に投げ込まれた。 市川さんは「100年の節目の昨年、映画の公開もあり多くの人が関心を持った」と振り返る。 一方、事件の周知は進んだが、真相を知る「認知」までは途上と課題も指摘する。 昨年公開された事件と同名タイトルの劇映画「福田村事件」について、市川さんは企画段階で製作側に協力した。しかし完成した内容は「行商の人などの描き方がひどい」と憤慨する。 具体的には、行商人らしくない服装や、効果のない薬を売りつける場面、自ら被差別部落出身であることを語る場面などが史実と異なるという。 行商団は香川県が交付した証明書を所持して薬を販売していたほか、当時は現在よりも被差別部落への差別が厳しかったと指摘。 「犠牲者、被害者の名誉を傷つけ、差別が広まってしまう描き方だ」