なぜ阪神”サトテル”は苦手の内角球を克服して8号&9号と爆発したのか…ハマスタとの相性と脱力の極意
阪神の佐藤輝明(23)が15日、横浜スタジアムで行われた横浜DeNA戦で、8号&9号を放ち、8-1の快勝に貢献した。1試合2本は、昨年8月17日の同じく横浜DeNA戦以来。先発左腕の東克樹(26)から放った1本目は不得意とされていた厳しい内角球を克服した特大アーチで2年目の進化の姿を確かに示した。
苦手の内角球を狙って仕留める
ハマスタが大好きだ。 昨年4月9日には右中間スタンドの最上部に設置してある「鳩サブレ―」の看板の上を越えていく驚愕の場外弾をぶっ放し、この日は、5月に入っての初アーチとなる52打席ぶりの特大8号を第2打席にマークすると、第4打席には9号をバックスクリーン右へと放り込んだ。 「早く打ちたいなと思っていましたし、2本出てよかったです」 敵地でのヒーローインタビューに呼ばれた佐藤はどこかウキウキしたようなノリだった。 これで佐藤のハマスタでの今季成績は、打率.500に3本塁打。ここをホームにしたい気分だろう。 価値ある一発だった。 3回に佐藤を打席に迎えた横浜DeNAの戸柱は、思い切り内角に体を寄せてインハイにミットを構えた。昨年後半に佐藤が失速した要因のひとつとなったウィークポイントである。だが、佐藤は、そのボールを狙っていた。 伏線はあった。1回一死一、二塁の先制機にも佐藤は徹底して横浜DeNAバッテリーに内角を攻められた。ファウルで3球粘り、最後は外のカットボールにバットが空を切って三振に打ち取られていたが、その内角球の残像とタイミングの感覚が残っていたからこそ「しっかり真っすぐに合わせて振りにいけた」という。 「しっかりと狙いを絞って、1発で仕留められたのでよかったです」 東が初球に投じた141キロの内角高めのストレートを体を開き、打ち損じることなく確実にコンタクトした。放物線を描いた打球はライトポールを巻くようにしてスタンドの中段まで届いた。
ウィークポイントを克服した一打。東の球威不足があったにしろ、このアーチの意義は大きい。 前日も上茶谷の内角球を狙ってライト線を破るツーベースを放っている。もう苦手意識は消え、「内角球を意識させて落ちるボールで勝負」という佐藤攻略のパターンが、そう簡単には通用しなくなっている。 そして6回には、”佐藤キラー”としてマウンドに上がった左腕の田中健の143キロのストレートをバックスクリーン右まで運んだ。手応えほど打球が飛んでいなかったそうで「いったかなと思ったんですが、ギリギリだったので、パワー不足ですかね」と笑った。 昨年5月28日の交流戦の西武戦では、1試合3発の大爆発を見せた。8回の第5打席で、その3本目を意識したか?と聞かれ「特にはなかった」という。 結果はセンターフライ。 「凡打したのでもっと練習します」と返すと、ハマスタに残った阪神ファンから笑いが起きた。 佐藤はなぜ苦手の内角球を打てるようになったのか。何がどう進化したのか。 一昨年まで7年間、阪神でコーチを務めていた評論家の高代延博氏は「スイングに脱力感が見えること」をポイントに挙げた。 「力みがなくなっている。フルスイングが佐藤の代名詞のようだったが、何が何でもマン振りではなく、力がうまく抜けてボールを芯で捉えることができてきた。2本目の本塁打など軽く打ってるように見える。カウントを追い込まれたり、走者がいたりとか、状況に応じて軽打もできるようになった。力みがないから、右肩や右腰が開かないし、タイミングに”間”がある。だから内角を攻められてもファウルや空振りにならず一発で仕留める精度が高まっている。守備も同じでグラブにボールが入る瞬間に力が抜けていることが重要で、この感覚をつかめればミスは減るのだが、なかなか、その極意をつかむのは簡単ではない。もし佐藤が、バッティングにおいての脱力のコツをつかんだのであれば、昨年の24本は越えていくことになるのでは」 昨季は.238で終わっていた打率が.288と改善。三振数も昨季はワーストトップを最初から最後まで独走していたが、現在は38個で、ヤクルトの村上の40個に次いで2位。いまのところワーストの汚名は返上している。 キャンプからオープン戦にかけて、藤井巡回打撃コーチのアドバイスをもらいながら、ポイントを近くにして、ボールを見極めることに取り組み、フルスイングよりも確実性を求めてきた。 まだ試行錯誤の段階であることは確かで「打撃が小さくなった」との指摘もあるのだが、進化の跡は確実にデータに現れている。今の取り組みで、本塁打の数がついてくれば、理想的だろう。 前日はドラフト同期の中野が2本塁打を放ち、あと三塁打1本でサイクル安打達成という大活躍を見せていた。公私ともに仲のいい同期の2発に少なからず刺激を受けたという。 「意識?ちょっとありましたね。負けてられないなという。ちょっとホームラン数も迫られたので。今日で離せてよかったです」 ちなみに中野は2本打って3号。迫られたというほどの本塁打数ではないが、余裕しゃくしゃくの“佐藤節“が冴えわたっていた。 貧打に苦しんでいた阪神打線は佐藤に引っ張られるようにしてハマスタで息を吹き返した。連日の大量得点で連勝。気づけば、5位の横浜DeNAとのゲーム差は2.5。最下位脱出の光が見えてきた。 「4番・サード」が定位置になってきた佐藤が言う。 「(本塁打を)いっぱい打てばチームも勝てるので、もっとこういう試合を増やしていきたいです。野手の方でしっかり点を取って、勝ちたいなと思います」 ヒーローインタビューの最後。 アナウンサーに「次の試合も大きな大きなホームラン、期待していいですか?」と質問された佐藤は、如才なく、こう答えた。 「はい。頑張ります!」 虎の反撃のカギを握るのが4番打者、佐藤の打棒であることは間違いない。