モスル陥落は“時間の問題”「イスラム国」はその後どうなる?
ISの厳しい監視で逃げられない住民多数
作戦が始まって1か月あまり、IS側の戦死者も相当な数に上っていることは間違いないが、イラク政府軍の被害も甚大だ。 国連が12月1日に発表したところによると、11月の政府軍・クルド部隊・シーア派民兵の戦死者は1959人に上るという(10月の戦死者はその3分の1程度とのこと)。 ちなみに、同じく国連によれば、11月の民間人の犠牲者は少なくとも926人。多くは戦闘の巻き添えだが、ISによる処刑も多々報告されている。 モスル攻略戦が開始されてから、モスルを脱出した住民は、11月22日段階で約7万人である。当初は数十万人が避難民になると予想されていたが、IS側が厳しく監視しているため、ほとんどの住民が逃げられないでいるのが現状だ。 作戦開始以前の8月30日には米中央軍のボテル司令官が「モスルの年内奪還は可能」との見通しを表明したほか、9月19日にはイラクのアバディ首相も「数か月内にモスルからISを追い出す」と語っていたが、実際にはそう簡単には進んでおらず、年明け後すぐにもモスルを制圧できるような状況でもない。 ただ、いずれにせよこれだけ兵力差があれば、ISに勝ち目はなく、いずれモスルは陥落する。
最盛期の55%の占領地を失ったIS
モスルは、シリアのラッカと並んでISの本拠地であり、ここが陥落することの意味は大きい。ISはイラク西部からシリア東部にかけての広いエリアを占領しているが、実際にはその支配地のほとんどは土漠の荒れた辺境の地で、ISは点在する「町」とそれらを結ぶ街道を制圧していた。それらの「町」の中でも最重要な大都市がモスルである。 モスルを失えば、ISはイラク領内での大きな「町」をほぼすべて失うことになる。それにモスルには油田と石油施設があり、ISはそこから巨大な利益を得ていたが、それを失うことになる。また多数の住民を支配下に置き、彼らからの収奪でも多額の資金を得ていたが、それも失う。 ISはもともとイラク政府軍から鹵獲(ろかく)した大量の武器・弾薬を持っていたが、すでに多くを消費しており、新たに闇市場で調達する必要があるが、資金源の枯渇はそれをより難しくするだろう。 ISはすでにイラク全土で最盛期の占領地の55%を失っているが、いずれにせよその凋落は決定的といえる。 もともとISは2014年6月の蜂起に成功するまでは、辺境の有力ゲリラの一つに過ぎなかったが、再びそうした存在に戻ることになる。そして、辺境での奇襲攻撃や、都市部あるいはシーア派施設などでの爆弾テロなどを今後も続けていくことになりそうだ。 モスルの陥落は時間の問題であり、次にISの趨勢に影響するのは、シリアでの本拠地であるラッカの攻防戦になるだろう。ラッカは、有志連合の空爆支援を受けてシリアのクルド部隊「人民防衛隊」が中心になって攻めることになるが、ラッカが陥落すれば、ISはシリアでも「辺境のゲリラ」の一派にすぎなくなる。 ただし、シリアでは他の反体制派がいずれも小規模なので、シリアでのISは、まだまだゲリラの中では最有力な勢力の一つであり続けるだろう。
----------------------------------- ■黒井文太郎(くろい・ぶんたろう) 1963年生まれ。月刊『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長等を経て軍事ジャーナリスト。著書・編書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』『北朝鮮に備える軍事学』(いずれも講談社)『アルカイダの全貌』(三修社)『ビンラディン抹殺指令』(洋泉社)等がある