時代の動きの中心に身をおいているように感じた(レビュー)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介 今回のテーマは「日記」です *** 坪内祐三は、毎日新聞に五十回、さまざまな人物の日記を紹介することになった時、それなら掲載日に近い文章を取り上げることにしよう――と決めました。 十二月であれば、朝日新聞「天声人語」担当者の中でもひときわ名高い深代惇郎の若き日の日記から、昭和二十七年十四日の、自由についての考察を引きます。 翌週には、「中央公論」の大編集者・瀧田樗陰のもとで働いた木佐木勝の日記から大正八年二十五日の、〈今日は校了休み〉と始まる、年末の様子を紹介します。 独身の木佐木には、年越しの準備も〈何をすることもない〉。そこで、一年を回顧します。 「(前略)自分も『中央公論』に関係してから吉野博士と最も因縁の深い瀧田樗陰を知り、自分自身も身近かにこれらの人々を感じ、これらの人々とともに、時代の動きの中心に身をおいているように感じた」 文章は、ここからさらに具体的なものになっていきます。 このようにして一年間分、「社会の変動を鋭く感知」という夏目漱石の四月九日の日記に始まり、樋口一葉の「文学青年から受けた刺激」という三月二十五日の日記までが、次々に紹介されていきます。 五十人の日記から、書き手と彼らの生きた時代の「その時」を描く『日記から 50人、50の「その時」』。 令和二年年明けに急逝し惜しまれた、坪内祐三ならではの仕事です。 [レビュアー]北村薫(作家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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