混乱の現場パワハラ渦中の栄氏娘・希和が涙の勝利「何が何でも勝たなきゃ」
当初、大会運営側は栄希和が報道陣の前で話す機会を設けないのではないかと予想されていた。ところが、彼女はカメラの放列の前に現れた。 「勇気あるな」という感嘆の言葉が自然に漏れるとともに、ひょっとしたら、これから、彼女は選手として化けるかもしれないねともささやかれた。 リオ五輪48kg級金の登坂絵莉(24、東新住建)と同期で親友でもある栄希和はこれまでも真摯に練習に取り組んできたが、どちらかというと、自分のことよりも他の選手のサポートに熱心になってしまいがちだった。リオ五輪前には、代表選手への応援アルバム作成をとりまとめるなど熱心に動いていた。今回のワールドカップでも、控えとしてチームの試合を見ているとき、誰よりも身を乗り出して声援を送る姿が目立っていた。 だが、今回、異例の形で注目を浴び、その重圧を背負う中、勝つ体験を得た彼女は、脇役から主役へ転じるきっかけをつかんだのかもしれない。 「決勝戦は、たぶん、1位の選手が試合をすると思います。日本で優勝という目標を掲げている大会なので、全力でサポートしてみんなで頑張りたいです」 各階級一人の代表選手が出る形式の大会だけに栄希和の試合は、これが最後になる可能性が高いが、チームの一員として全力サポートを誓った。 最後に。 父親が生涯をかけているレスリングを娘も後を追うように世界一を目指して続けていると聞くと、そこに父娘の愛情物語が連綿と続いていると思われるだろう。 だが、失礼を承知で言えば、栄和人は、父親としてはあまり褒められた存在ではない。もちろん、心中では娘を気にかけているのだろうが、常に「選手」のことを最優先する。いつも穏やかな笑みを浮かべる彼女は何も言わないが、思春期に起きた両親の離婚に対しても、複雑な感情を抱えていたことだろう。だが、それらを飲み込んででも、レスリングには魅力があると彼女は気づいてしまった。そんな人柄が知られているからこそ、実際に彼女を取り巻く人たちは、応援の声をかけるのをやめないのだろう。全力でプレーする選手になんら罪はないのである。 (文責・横森綾/フリーライター)