混乱の現場パワハラ渦中の栄氏娘・希和が涙の勝利「何が何でも勝たなきゃ」
とはいえ、世間の風評によって選手は不安に苛まれた。栄希和は「自分が出て大丈夫なのかな」と思い悩み、出身校であり練習拠点でもある至学館大学の谷岡郁子学長に相談した。 毅然として打ち克ちなさいと励まされ、応援して送り出してくれる身近な人たちの後押しを得て、「怖い気持ちもありましたけど、やっぱり自分が出て勝つというのが最高の形だなと思って」出場を決めた。 もちろん、好奇な注目を「浴びているなと感じ」「多少、動揺していたときもあった」という。 だが、雑音は耳に入らないようにして「練習は練習と割り切って」準備をした。そして、この日、一試合目のスウェーデンとの試合に挑んだ。 試合が始まると、明らかにいつもと違う栄希和の姿があった。足が、少しも動かない。父とよく似ていると言われる、フェイントをかけてからのタックルへ入る動作も始まらない。腰高な相手選手のペースになりつつあった第1ピリオド終盤、2点を先制された。ここで、ようやく開き直れたのか。第1ピリオド終了間際、ようやくタックルから2点を取り返し、逆転した。 第2ピリオドは、第1ピリオドと比べると少し落ち着いたようだった。得意のパターンでさらに2得点を重ね、4-2で勝利した。試合が終了するとしゃがみ込んだが、すぐに立ち上がりレフェリーに挨拶、マット中央にお辞儀をして相手セコンドに挨拶をして、日本チームのもとに戻った。タオルを持ったコーチと川井梨 紗子(23、ジャパンビレッジ)に近づくと、うつむいて肩を震わせた。 試合後に彼女は「勝ててホッとしたのが一番でした」と振り返った。 「2番手ではありますけれど、代表としてここに来ているので、絶対に勝ちたいと思って試合に挑みました。でも、あまりいい動きができませんでした。何が何でも勝たなきゃいけないという状態の中で緊張しながら怖いという思いのまま試合に臨んだからか、頭の中が真っ白になっていました。試合の内容はよくなかったんですけど、まずは勝ててホッとしたのが一番です。課題はたくさんあります。でも、今までにない状態の中でも、何が何でも勝つという結果にこぎつけられたのはすごくよかった。そこはこれからも自分の自信になると思います。父がいない中でも、ちゃんと父に教わったレスリングができたと報告したいです」 注目の彼女の試合が始まると、泣きながら応援するチームメイトもいた。 「今回の試合に対して緊張している様子も、全部見てすごく心配してくれていた人たちです。泣いて“くれた”という言い方は、おかしいかもしれないけれど、そこまでして全力で応援してくれた。このチームの人たちとレスリングができて、良かったなと思います」