「自治体消滅」推計が波紋 本当に半数が消えてしまうのか?
2040年までに自治体の半分が「消滅」する――。「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務相)の推計が波紋を呼んでいます。地方から大都市圏への人口流入や少子化が止まらなければ、約1800の市区町村のうち896自治体が将来なくなってしまう、との内容です。しかし、「自治体消滅」は本当に起きるのでしょうか。そもそも「自治体消滅」とは何でしょうか。
「大げさでは」との反応
5月8日に推計が発表されると、各地の知事からは「大きな課題だ」という共通認識と同時に、疑問も飛び出しました。目立ったのは「少し大げさではないか」という反応です。 新潟県の泉田裕彦知事は会見で「新潟県の人口も国立社会保障人口問題研究所の将来推計人口よりも上ぶれした。国が心配していたほど落ち込まなかった」と疑問を示しました。鳥取県の平井伸治知事も「人口流出が強い地方に悪目の結果」が出たとの認識を示しています。 兵庫県の井戸敏三知事は「おかしい」と明快に言い切りました。これまでの傾向が2040年まで続くとの前提で計算された今回の推計では、兵庫県の消滅自治体は21市町です。ところが、人口規模が減少すると、減り方も小さくなるはず。同じような推計を発表している国の人口問題研究所は、過去25年の人口移動の状況を加味しています。その点を捉え、井戸知事は「単純機械的な集計は方法論として課題がある」「(国の推計によると)状況は異なる。兵庫県の場合、消滅可能性は二つしかない」と述べています。 いずれも当事者側の発言ですから、割り引いて受け止める必要があるかもしれませんが、こういった意見にも耳を傾ける必要はありそうです。
自治体消滅とはどういう状態?
では、「自治体消滅」とは、どんな状態を指すのでしょうか。マスコミ報道が「消滅」を強調したため、人の住まないゴーストタウンのような自治体だらけになると感じた方も多いでしょう。 実は、日本創成会議の発表資料は「消滅」を明確に定義していません。20~39歳の女性人口が50%以上減少した場合、合計特殊出生率が現状の1.41のままなら人口減少が続く、と言及しただけです。そして結論的に末尾では「自治体」の語句を使わず、「こうした地域は最終的には消滅する可能性がある」と記しました。 平成の大合併を経て、自治体は約3200から約1800へと激減しました。日本は昭和30年代にも自治体合併の大波を経験しています。着目すべきは、いずれも議会の議決などを経た住民意思の結果であり、人間の自然死のように自治体が丸ごと消えてしまう事態は起きていない、という点です。 2000年代半ば、日本では「限界集落」に注目が集まりました。過疎地域の疲弊が進み、近いうちに村が消えるという議論です。地域社会学の山下祐介・首都大学東京准教授は著書「限界集落の真実」の中で、こうした危機感の広がりは、政治・行政的に「つくられた面が大きかった」と言及しています。行財政改革が進む中、緊縮財政を進めようとする勢力に対し、地方への補助金や交付金の利権を持つ勢力が、報道を巻き込みながら激しい争いを続けたことと密接に関係している、との指摘です。実際、限界集落は生き残っているし、地域のつながりが都会よりはるかに強い集落は簡単に消えない、と強調しています。