好きなことの喪失と再生、サメ一筋「シャークジャーナリスト」という生き方
運命を変えたセミナー
体調が悪いなか、1日に活動できる時間は限られている。ならば、「その時間の中で、なんとかあがかなければ」と考え、体調が許す限り、とにかく手当たり次第にビジネス関連のセミナーや勉強会などに顔を出しはじめた。 あるセミナーで、自分の強みをいくつも書き出すというテーマが与えられた。人よりも少し優れた程度でよい、という。頭をひねって強みを書き連ねたところ、思わず驚いてしまった。 「サメのことだらけだったんです。『サメに詳しい』、『サメの研究をした経験がある』、『サメが好き』など、サメのことがたくさん並んでいました」。捨てたと思っていたサメは、ちゃんと自身の中に残っていたのだ。講師からも、「サメで勝負するのもいいんじゃないか」と背中を押され、強みであるサメを生かした仕事を模索するようになる。 サメについての情報を発信する『シャークジャーナリスト』という仕事が頭に浮かんだのは、2012年1月ごろだった。同年3月には、ブログで初めて「シャークジャーナリスト」と名乗るとともに、Facebookやブログでの情報発信に力を入れはじめる。
『人食いザメ』という言葉を死語に
シャークジャーナリストとして生きていこうと腹をくくり、会社を退職したのは同年11月。同じころ、幸先よくシャークジャーナリストとしての初仕事が入ってきた。読売テレビのバラエティー番組「大阪ほんわかテレビ」と、NHKの動物紹介番組「ダーウィンが来た」関連のクイズ番組への出演だった。 以来、シャークジャーナリストとしての仕事はおおむね順調で、今日まできた。連載記事は、現代ビジネス(講談社)の「シャークジャーナリスト沼口麻子の『サメに恋して』」、月刊マリンダイビング(水中造形センター)の「誰も知らないサメの魅力」などを抱えるほか、インタビュー取材も受ける。テレビやラジオにもたびたび呼ばれ、講演会やイベント、専門学校の講師の仕事もある。 シャークジャーナリストとなった今、「精神衛生上は、会社勤めの時よりもずっとよい状態」であり、体調も無理をしなければ問題はないところまで回復した。サメを取り戻したことが、心身に好影響を与えているのだろう。 今後は、科学や文化など、さまざまな角度からサメについての情報をより多く発信し、正しい理解を一層広めたいと考えている。研究者や水産業者、一般の人などをつなぐ「サメ情報のハブ」機能の役割を果たしたい、との思いを抱く。 「サメは怖いだけの生き物ではないのです。『人食いザメ』という言葉を死語にしたい」。将来の夢は、サメについて学べる体験型の施設を作ることだ。 (取材・文:具志堅浩二)