好きなことの喪失と再生、サメ一筋「シャークジャーナリスト」という生き方
THE PAGE
サメについて情報を発信する“サメ専門”のジャーナリスト・沼口麻子氏。サメについての正しい知識を広めるため、雑誌での記事執筆やテレビ・ラジオへの出演、専門学校講師、講演会などの多彩な活動を展開中だ。まるで、サメにとりつかれたかのような日々を送る沼口氏だが、サメ研究に没頭した大学時代の後、約8年半ほどサメとは無縁のIT企業に勤めていた。プログラマーや営業職を務めていたというOLが、いかにしてシャークジャーナリストとなるにいたったのか。その過程には、「好きなことの喪失と再生」の歩みが刻みこまれていた。
運命的なサメとの出会い、そして別れ
沼口氏は、東京都出身。2012年にシャークジャーナリストとして活動し始めて以降、サメ解剖セミナー、サメの愛好家が集うサメ談話会や鮫合宿の開催などを通じて、サメに関する情報発信に力を入れる。サメ顎の標本作りの指導も行うほか、海外へサメの観察に赴いたり、サメのカラー魚拓を作成したりと、多彩な活動を展開する。 新聞や雑誌、ウェブメディアへの寄稿やテレビ・ラジオへの出演も後が絶たない。趣味は「サメを妄想する」ことで、買い付けた世界のサメグッズは500以上、サメ系ファッションにこだわりがあるなど、とにかく仕事も私生活もサメのことばかりだ。 インタビュー当日、目の前に現れた沼口氏は、やはり全身サメまみれだった。身につけた衣服にはサメが泳ぐ絵柄があり、スマホカバーもサメ型のデザイン、アクセサリーも、バッグ中の文具も軒並みサメ。すがすがしいくらいに一貫している。 沼口氏がサメの魅力にとりつかれたのは、東海大学海洋学部3年生の時、実習で訪れた小笠原諸島・父島でのこと。ダイビングで、水深約20mほどの深さのところを潜っていると、体長2.5mほどのシロワニというサメに出会った。目の前の、本当に手に届くほどの近さのところを通っていくシロワニ。その格好の良さに見惚れてしまった。 「サメは一期一会なんです。餌付けしていないところでは出会えるチャンスがなかなかありませんし、出会ったとしてもすぐに逃げてしまいます」。運命的な出会いだった。 4年生になると、父島に入り浸ってサメの研究に明け暮れた。「ひたすらサメに向き合える日々。幸せな日々でした」。大学院の修士課程に進んでもそれは続いた。 つらいことがなかったわけではない。父島でサメの研究を行うのは自分ただ一人。サメを捕獲してくれる漁師を探すのも、軽トラックで港からサメを運ぶのも、研究施設での解剖もその後の処分もすべて一人で段取りせねばならなかった。 それでも、懸命に取り組んでいると、サメを無償で捕獲してくれる漁師が現れた。サメの運搬にも、解剖後の処分にも手を差し伸べてくれる人がいた。小笠原の人々の支えもあって、研究を進めることができた。「小笠原は自分の故郷のようなもので、大好きです。機会があれば、また長期滞在したいですね」。