息子の3年の不登校で外科医が転職を決断した訳 レール上を歩いてきた父親が“正論”を手放すまで
小中高生の不登校の子どもの数は40万人を超えるといわれています。自身もわが子の5年(中学1年の3学期から高校まで)に及ぶ不登校に向き合ったランさんは、その後、不登校コンサルタントに転身。子どもの不登校に悩む親と接すると、相談の入り口は子どもや学校に関することであっても、その背景には、さまざまな悩みや人間模様がありました。 本連載では、ランさんが、子どもの不登校を経験した親に話を聞き、問題の本質、そして相談者自身が見つめ直すことになった人生に迫ります。 【グラフを見る】不登校児童生徒数とその割合は急増している
■「僕はもうダメだ」と衝動的に家を飛び出す息子 私の講座やセッションを受けに来られるのはたいていお母さんですが、最近はぽつりぽつりとお父さんの姿も見られるようになりました。大澤さん(仮名、51歳)はそのひとり。外科医をされています。穏やかで子煩悩な家族思いのお父さんです。その息子さんが中学1年生の6月頃から学校に行けなくなりました。 「今思えば小学校6年生の頃からストレスを溜めていたんでしょうね。中学生になってからだんだん言動が荒れてきて、学校や世の中のことを悪く言うようになりました。反抗期と言えばそれまでなんですが、それにしては言葉も荒れ、暴力的な行為も出てきて、顔つきもおかしくなっていきました」
大澤さんがこれはただ事ではないと思ったのは、1学期の期末テストの頃。 「定期テストを受けられなかった息子が『僕はもうダメだ。死にたい』と言って家を飛び出したんです。妻からの連絡を受け、私も慌てて職場を飛び出しました」 「息子が向かったのは駅ビルの立体駐車場。私が慌てて違うビルに入っていくのを上から見ていたらしく、『お父さん、違うビルに行っちゃった』と言ったのを後から聞き、本気ではなかったのだと思いましたが、そういう行動に出たことに衝撃を受け、涙がとまらなくなって。これからどうしたらいいんだろうと」
その時は事なきを得たものの、息子さんは中1の夏休みを境に完全不登校になり、ゲームや動画サイトに没頭。時折、昼夜逆転の生活になることもあったそうです。 職場ではいつも冷静でも、この時ばかりは親としてうろたえたという大澤さん。仕事でつながりのある心療内科や精神科の医師に相談します。でも、思うような回答は得られず。 「ある医師からは『死ぬなどと言う行動に出た時は毅然とした態度で臨め。警察に電話するなど第三者に任せるように』と言われました。明確に線を引くのはたしかにひとつの方法でしょう。医学的なアプローチがそうなのかもしれません。でも私はそれを受け入れられませんでした。息子は私に見放されたと思うだろうなと」