韓国「弾劾」を契機に次期大統領選への攻防がスタート、焦点は憲法裁判所弾劾審理にどれだけかかるか
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾訴追案は、ついに国会で可決され、尹氏は大統領としての仕事ができなくなった。 表向きは、与党「国民の力」の足並みが崩れ、可決を阻止できなかったとみられているが、実際にはそんなナイーブな話ではなく、与党も「弾劾」を前提に動いた結果だ。 尹氏はいつ、どんな形で正式に大統領を退くのか。次期大統領選を見据えた水面下での神経戦が与野党で始まった。 ■転んでもタダでは起きぬ尹氏
2024年12月14日。尹氏の弾劾訴追案が賛成多数で可決されると、ほどなくして尹氏は国民に向けた談話を発表した。メディアは国会での採決の行方に注目していたが、尹氏側には「可決やむなし」との情報がすでに入っており、事前に録画した映像だったという。 尹氏は談話を「弾劾訴追案が可決されるのを見て、初めて政治参加を宣言した2021年6月29日を思い出しました」と切り出した。 この日は、検察ひと筋で歩んできた自身が、2017年の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾・罷免で壊滅状態にあった右派の救世主として担ぎ上げられ、政治の道に足を踏み入れる決意を表明した日である。
さらに尹氏は「この国の自由民主主義と法治は崩れていました。自営業者の絶望、若者たちの挫折が国中を満たしていました」と述べ、前任の左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権を暗に批判した。 「つらかったが幸せだった、そして大変だったがやりがいのあった、その旅程をしばらく止めることになりました。これまでの努力が無駄にならないか、もどかしいです」と続けた。 大統領の職務停止を受けたこの談話を、「非常戒厳」という強権を発動した尹氏が、やっとしおらしい姿を見せた、と見る向きは少ない。与党のみならず、最大野党「共に民主党」の関係者たちも「次期大統領選に向け、右派の結集を呼びかけた」と受け止めている。
与野党関係者らがそう考えるのは、この談話の2日前に尹氏が出した談話のためだ。戒厳令の解除後、自らの任期も含めて判断は与党に一任するとしていた尹氏が態度を一転させ、「弾劾しようが、捜査しようが、堂々と立ち向かう」と開き直った。 ■与党も「弾劾」織り込み済み この談話は与党内で2つの動きを加速させた。 1つは与党代表の韓東勲(ハン・ドンフン)氏とその支持グループが、野党提出の弾劾訴追案に賛成する流れだ。尹氏の「非常戒厳」を厳しく批判してきた韓氏らは、12月7日にあった弾劾訴追案の採決には造反せず、不成立に追い込んだ。