「夫婦げんか」乗り越え、苦節15年で待望のひな誕生…「アフリカハゲコウ」国内初の孵化に成功
山口県美祢市の秋吉台サファリランドが今月上旬、アフリカハゲコウの飼育下での孵化に国内で初めて成功した。雌のキンと雄のギンの間に2羽のひなが誕生するまでには、幾度もの“夫婦げんか”を乗り越えるなど苦節15年の道のりがあった。飼育員らは「ようやくひなに会えた」と喜び、子育てを温かく見守っている。(谷口善祐) 【写真】展示場の前でひな誕生の喜びを語る大下さん
「うれしくて体震えた」
待望の瞬間は今月4日夕に訪れた。飼育員の一人が展示場から聞こえるかすかな音に気付いた。獣医師で飼育担当の大下梓さん(44)が同夜、24時間観察しているカメラで確認すると、卵から「ピヨ、ピヨ」と鳴き声がした。翌日、ひなが殻を内側から割る「嘴打ち」が始まり1羽目が誕生。2日後、2羽目も続いた。
2009年に野生のキンとギンをつがいで迎え、長年、繁殖に取り組んできた大下さんは「ひなの姿を見たとき、うれしくて体が震えた」と声を弾ませる。
動物園の野生動物を巡る環境は厳しい。絶滅の危機に直面する野生動物を保全するため、1975年に国際的な商取引を制限するワシントン条約が発効し、日本も80年に締約国となった。また、絶滅の恐れがない動物もアフリカからの輸入が防疫のため約10年間止まっており、すでに国内にいる動物の繁殖に取り組む重要性が高まっている。
同ランドは以前も複数の個体を飼育していたが、繁殖には至らなかった。当時は「鳥コーナー」で放し飼いにし、飛び去らないように羽の一部を切っていた。大下さんは「羽の影響でバランスが取れず、交尾がうまくいかなかった可能性がある」と推測する。
そこで、2羽の羽は切らず、ネットの内側で飼育する態勢に変更。一方で、2010年から来場者の頭上すれすれを飛んで飼育員から餌をもらうイベントを始めたところ、2羽は一躍人気者に。訓練中に逃げたこともあったが、発信器を付けるなどして対応した。
繁殖能力低下に懸念
12年にギンがキンの上に乗る行動が確認されて期待が高まったが、その後、2羽は争うようになった。キンの加齢に伴う繁殖能力の低下も懸念され、22年に国内の施設から新たな雄のハクを迎えて昨年1月からつがいで飼育を始めた。ところが、ハクはキンを攻撃。新たな雄を迎えることも検討したが、アフリカからの動物輸入は止まっていた。