「夫婦げんか」乗り越え、苦節15年で待望のひな誕生…「アフリカハゲコウ」国内初の孵化に成功
「長年連れ添ったギンに命運を委ねるしかない」。同年6月、パートナーをギンに戻し、万全を期すため、イベントを同年11月から中止した。餌の量も制限せず、満足するまで与えた。
すると、2羽の首が太くなり、頭部の赤みが濃くなるなど繁殖期の特徴が表れた。今年2月に交尾が始まると、3月にはついに、初めての卵が確認された。
産卵後に攻撃
だが、試練は続いた。本来はペアが協力して抱卵するが、産卵後、ギンがキンを攻撃するようになった。
「ギンは『自分が子育てする』と言わんばかりに抱卵し続けていた」。キンは巣に近づけず、ギンも抱卵のため餌をほとんど食べない状況が1週間ほど続いた。大下さんらは2羽の健康を優先してやむなく卵を取り上げ、産卵期が複数回あることに望みを託した。
5月3~11日、キンは計4個の卵を産んだ。今度は協力して交互に抱卵。大下さんも1か月間、カメラを深夜まで確認した。抱卵時間や、内部の温度を一定に保つために卵を転がした回数を書き留めたノートは、計4冊に及んだ。
「日本初の子育てを担当する責任を感じた」と大下さん。牛肉などを好んでいた2羽は今、アユなどの魚を食べ、ひなに与えるために吐き戻すなど「親の顔」を見せているという。
繁殖に取り組んだこともあるとくしま動物園(徳島市)の飼育担当・福永健悟さん(30)は「ペアの関係性を保つことがとにかく難しい鳥。卵を24時間観察するなど徹底しており、素晴らしい成果だ」と祝福する。
同ランドは飼育下で孵化に成功し、生後6か月を過ぎても生存した日本で初のケースに贈られる公益社団法人「日本動物園水族館協会」の「初繁殖認定」を目指し、飼育に取り組む。
◆アフリカハゲコウ=コウノトリ科の大型の鳥で体長1・2~1・3メートル、体重5~9キロ。成鳥は翼を広げると2・5メートルにもなる。淡いピンク色の大きな喉袋が特徴。サハラ砂漠以南のアフリカ全域に生息し、動物の死骸やヘビなどを食べる。日本動物園水族館協会の加盟施設では、平川動物公園(鹿児島市)など9施設(2023年12月末時点)で飼育されている。