時代とともに変わる「皇太子の教育」 公務が忙しい中で学ばれる内容とは? イギリス国王がもっとも重視するのは「憲法」
悠仁さまの東大推薦入試など、つねに世間の注目を集めてきた皇族の教育問題だが、これまでの天皇はどのような教育を受けてきたのだろうか? 時代とともに変わっている「帝王学」についてみていこう。 ■明仁親王に個人授業を授けたアメリカ人女性とは? 平成の天皇にして、現在の上皇さまが皇太子時代に「帝王学」を授けた1人が、「バイニング夫人」の表記で知られる、エリザベス・J・G・ヴァイニング(Elizabeth Janet Gray Vining)というアメリカ人女性だったというのは興味深い逸話です。 名目としては皇太子時代の上皇さま(明仁親王)への英語の個人授業でしたが、ヴァイニングは「自分の意思を明確にすること」、そして憲法を遵守し、国民とともに存在するための心構えを、長い立憲君主制の伝統を持つイギリス王室の歴史を例に伝えたそうです。将来のイギリス国王に与えられる教育のうち、もっとも重視されるのは憲法の授業だといいますからね。 ヴァイニングは学習院中等科の英語教師も務めていました。その明るい人柄で、生徒たちから慕われていたそうです。 日本には4年あまり滞在していたヴァイニングがアメリカに帰国した後、上皇さまは学習院大学に新設された政治学科に進学したのですが、いかんせん公務が忙しく、進級に必要な出席日数が足りなくなってしまいました。 すると、「留年するくらいならば退学する」という潔い決断がくだされ、正規の学生から聴講生の身分となって、通学できる時には大学に行くというスタイルで最後まで学び続けておられます。それゆえ、上皇さまのご学歴としては「学習院大学ご修了」という記述になっているのですね。 ■歴代天皇の崩御した日に、その事績を偲ぶ「式年祭」 現在の天皇陛下(今上陛下)こと徳仁親王への「帝王教育」は、学習院高等科時代には始まっていたそうです。徳仁親王は少年時代から歴史に強い興味をお示しになられ、イギリスのオックスフォード大・マーティンカレッジの大学院にも留学し、歴史の中のテムズ川の水運などを研究なさいました。 少年時代の昭和天皇も、もっとも熱心に取り組んだ科目は歴史だったというのに、思考が偏ることを理由に周囲から危険視され、最終的に生物学を専攻なさったという逸話があります。しかし、その孫に当たられる今上陛下は高校生のころから、学習院大学名誉教授だった児玉幸多から歴代天皇についての個人授業を受けられています。 天皇家には歴代天皇の崩御した日に、その方の事績を偲ぶ「式年祭」という行事の伝統があるそうで、その儀式の前日に講師を私的に招き、講義を受けていたそうです。今上陛下が高校生のころに受けたという歴史の個人授業も、そうした伝統の一部だったといえるかもしれません。また、毎週一回のペースで、父宮(現在の上皇さま)と共に昭和天皇を訪問し、お話をうかがうこともあったとか。 このように「帝王学」とは、新時代を生きる天皇には、「こういうことを学んで欲しい」という周囲の意向を強く反映したものであり、時代による変化が想像以上に激しいようです。 とくに昭和天皇以降の天皇には、「ヨーロッパなどの各国の君主や首脳たちと対等に付き合える存在であるべき」という観点から、「帝王学」も国際化の一途をたどっていると考えられます。 画像出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)
堀江宏樹