「最高の死」を支える「死のドゥーラ」が米国で急増中、あるALS患者の例を追う
おだやかな旅たちを迎えられるよう、慰めや思い出作りから相続続計画の策定も
2017年1月、64歳のジェリー・クリーハンさんが筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された時、ジェリーさんと妻のスーさんはこれから苦難が待ち構えていることを悟った。1年以上前からジェリーさんは体のバランスを取ることが難しくなり、たびたび転倒して起き上がることができなかった。ALS(過去には「ルー・ゲーリック病」として知られていた)は進行性の神経障害で、随意筋運動や呼吸、その他の身体機能をつかさどる脳の神経細胞と脊髄に障害が起き、進行すると麻痺が生じて死に至る。 ギャラリー:蘇生を願い、人体を冷凍保存する人々 写真16点 2020年にジェリーさんの症状はさらに進行し、車椅子の操作には視線入力技術を、呼吸には非侵襲的(危険や痛みを伴わない)人工呼吸器を使用しなければならなくなった。米バージニア・コモンウェルス大学にあるALSクリニックのサポートグループに参加していたスーさんは、終末期ドゥーラのシェルビー・キリリンさんの話を聞いた(ドゥーラの語源はギリシャ語で「助ける人」。元来は、産婦を身体的心理的に手助けする女性を意味する)。 キリリンさんは神経外傷専門の元看護師で、集中治療室(ICU)で20年間勤務した経験がある。「その間に、終末期を迎える準備ができていない、終末期の人にどう接したらいいかわからない、という人々を目の当たりにしました。こうした状況を改善したいと思ったのです」とキリリンさんは話す。この思いから、キリリンさんは、2015年に終末期ドゥーラとなる決心をした。 「私たちは、ジェリーがALSの最終段階を迎えたことを理解していました。ジェリーは死を恐れてはいませんでしたが、その時について話し合うには手助けが必要でした」と、外傷ケアのナースコンサルタントであるスーさんは振り返る。「夫は、痛みも苦悩もない最高の死を望んでいました」 出産ドゥーラや産後ドゥーラ、妊娠を中断する女性をサポートする中絶ドゥーラについては、知っている人も多いだろう。 一方、終末期ドゥーラによる支援の対象となるのは、死が近い人やその家族だ。「死のドゥーラ」とも呼ばれるこうした専門家はまれな存在だったが、新型コロナウイルスによるパンデミックが大混乱をもたらしたことで、米国では終末期ドゥーラを育成・支援する組織が続々と立ち上がった。 2019年の全米終末期ドゥーラ連合(NEDA)所属のドゥーラは260人だったが、2024年1月には1545人に増えた。ある調査によれば、終末期ドゥーラが最も盛んに活動しているのはオーストラリアとカナダ、英国、米国だという。