“完璧さ”にNO?「不完全なファッション」がランウェイに回帰する理由とは
筆者が高校生のとき、わざと穴を開けたTシャツを購入しようとしたら、母が愕然としていた。ずたずたに裂かれたデニムを購入したときにも母は同じ反応を示し、信じられない様子で「なぜそんなにボロボロなものにお金を払うの?」と疑問を口にしていた。 【写真】華麗セレブが来場! 2024-25秋冬パリコレのフロントロウを総覧
「不完全なファッション」の魅力は、もう何十年も前から存在している。ミウッチャ・プラダはその主な提唱者のひとりで、90年代から“アグリー(醜い)・シック”な服を、誇りを持って作り続けてきた。2024年春夏コレクションではより多くのデザイナーがこのスタイルに追随し、ファッションの世界や、特にSNSで見られる“完璧さ”に反発するかのように、意図的に乱したり、だらしなく見せたりする、洗練性を抑えたルックが台頭した。
人気スタイリストのロッタ・ヴォルコヴァがスタイリングを手がけた「ミュウミュウ」のコレクションでは、やみくもに重ね着したシャツや、シューズやアクセサリーを無造作に詰め込んだハンドバッグなどが登場した。また、「ボッテガ・ヴェネタ」では口の開いたトートバッグに書類や雑多な小物が詰め込まれ、「メゾン マルジェラ」のコレクションでは、解体されたボロボロのトップス、スカート、ドレスに、段ボールで作られた帽子を合わせたルックが登場した。では、いまなぜファッションは未完成なルックに回帰しているのだろうか。
ファッションを振り返ることは一般的にあまり良くないことだが、2010年代は退行の10年だったと言える。Instagramが台頭し、常に美しくいることが求められたため、パパラッチに化粧をしていないところをキャッチされないように、セレブたちはちょっとした用事でも完璧に整えられた姿で家を出るようになった。
この現象は、時を経たあともオンライン上で完璧かつ永続的に存在している。21世紀のスタイル・アイコンはほとんどがスクリーン上の存在であり、もし実際に彼らを見かけたら、その顔や服装はカメラ向けに作り上げられたものだとわかるだろう。いまや、レッドカーペットからコーヒーを買いに出かけるときまで、すべてのセレブに専属のスタイリストがついていると言ってもいい。彼らのルックは、パパラッチのネタになるように、インスタ映えするように、そして簡単に消費できるように仕立てられている。