高齢化・老朽化団地の管理組合理事長に突然就任! 預かったのは2億円、管理会社&個性的すぎる代表11名と挑む戦いの幕開け【ポンコツ理事長奮闘記1】
私、フリーライターの水野康子と申します。 離婚後、実家のある築40年超の団地に戻って17年。コロナ禍に伴って最大のピンチが訪れました。 それは120世帯の団地の管理組合・理事長の職。 経験なんてないのに、預かったお金は約2億円。理事会メンバーは住民の代表11名と管理会社のフロントマン。集合住宅で暮らしている人なら誰もがなりうる、この立場。来年はあなたに回ってくるかもしれません。これは、手探りながら個性的すぎる面々とともに1年間の任期を駆け抜けた私、ポンコツ理事長の奮闘記です。
バブル前は一世を風靡した団地も、老朽化と高齢化が深刻化
私が暮らす団地は1981年に竣工しました。父にとっては、勤めていた会社の社宅を出て、初めて手にした自己所有の新築物件です。父は三男。母は次女。どちらも長子でなく、受け継ぐ家を持たなかった親にとって、当時、“最先端”と言われた団地は手の届く幸せのカタチ。団地暮らしが気に入った父母はその後、戸建てに移るチャンスに恵まれてもあえて見送ったほどでした。 ところが、です。 日本社会は高齢化に歯止めがかからず、その一方で団地の老朽化が深刻化。離婚して実家と同じ団地に戻り、向かいの棟に入居すると、その年に管理組合の理事会に出席するように言われました。今思えば、あのころから理事のなり手が足りていなかったのでしょう。 そして17年の月日が流れました。その間に私は4回も理事となり理事会に出席していますが、だからといって決して熱心なメンバーというわけではありません。単身で、締め切りのある仕事を抱えながらの生活はとても不規則。理事の仕事は前年度の2月に行われる“役決め”の互選から始まるのですが、前の3回はすべて母が代理で参加してくれました。4度目にして初めて“役決め”の場に自ら顔を出したのは、父が他界し、母も高齢で、代理とはいえ、とても話し合いの場には出せない、と痛感していたからでした。
管理会社への一部委託で緩む住民の緊張感。それが波乱の始まりだった…
団地を「管理」の目線で見るに当たり、前もって大切なポイントについて触れておきましょう。 それは、管理方式の違いについて。 集合住宅の管理方法には大きく分けて2つ、「自主管理」と「管理委託」があります。「自主管理」とは団地の管理業務をすべて住民で担うやり方です。週に2度のゴミステーションの清掃、夏場の散水、月に1回の敷地内清掃、月に一度の理事会開催、議事録の作成、億単位の会計処理等々はすべてボランティア……私たちの団地では竣工以来、この「自主管理」方式を続けていました。 転機が訪れたのは築35年を過ぎたあたりから。 私たちの団地も高齢化と老朽化の波にはあらがえませんでした。そしてついに、2016年から管理業務の一部を外部の管理会社に委託することになったのです。今まで自分たちで担っていたものを人に任せる。口で言うのは簡単ですが、誰に任せるか、どれだけ任せるか、その判断の重さに当時の理事長が倒れてしまったほど。 当時、私たち住民は「自主管理」か「管理委託」か、という違いは知っていても、「管理委託」に「完全委託」と「一部委託」の区別があることすら知りませんでした。「完全委託」とは団地の管理業務のすべてを託すこと。「一部委託」とは団地の管理業務のうち、「会計と議事録作成のみ」とか「清掃と点検業務のみ」とか、一部だけを切り取って託すことです。 しかし当時の資料を見ると、表組で示された委託項目は「事務管理業務」「管理員業務」「清掃管理業務」「設備管理業務」に限定され、そのすべてに〇印がついてます。管理会社も受託件数を増やすのに必死だった時期でした。ぱっと見ただけでこの契約内容が「一部委託」だと分かる住民はけっして多くなかったでしょう。また注釈のところに、団地の理事に残る主な業務は、「理事会・総会の開催」「月次・半期・年次決算監査」「防火管理者の選任」「一部の緊急業務対応」「外部委託業者との折衝や評価」等と記されていますが、実際はそれで済むはずもありませんでした。 「完全委託」にすれば楽になれるのに「一部委託」に留まった理由は2つ。1つはお金の問題。もう1つは信頼の問題でした。管理委託がどのように機能するか、見極めがつかなかったのです。それに、一気に大きく変えてしまっては気持ち的についてこられない人もいます。当面は組合員から徴収する共益費を据え置き、これまでの余剰金を取り崩しながら様子を見ることになりました。いつでも自主管理に戻すことができるように、そしていつでも管理会社をリプレイスできるように……その緊張感は理事会が代替わりすると、あっという間に緩んでしまいました。 「ああ、管理委託でやっと楽になれる……」。 管理委託が始まってほっとした住民は実に多かった。「一部委託」でしかないのに、「完全委託」になったかのような錯覚に陥り、まるで魔法にかかったように、完全なる思考停止状態になってしまいました。管理委託になっても、自分たちがやらないといけないこと、判断しないといけないことが残されているにもかかわらず、です。 これが大きな落とし穴だったのです。 住民側の「管理会社にお願いすることになったのだから、住民の負担をもっと軽くしてほしい」という訴えに対し、管理会社は次第に「委託内と委託外の業務があり、委託外の業務は担当することができません。ご理解を賜りますようお願い申し上げます」というスタンスを強めてきました。「一部委託」とは一体どこからどこまでなのか、この混乱は管理委託開始後8年を経過した今も議題に上がっています。
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