全日本2位で北京五輪出場決定的…トリプルアクセルに挑んだ樋口新葉を支えた4年前の思い…「倍返し」のツイート
迎えた演技後半。3連続を予定していたはずが回転不足でルッツ-トウループの連続ジャンプとなり、再び減点の対象となっても取り乱さない。すぐにトリプルループ-ダブルトウループ-ダブルループの3連続ジャンプを成功させてリカバリーした。 今シーズンのフリーのプログラム曲に採用した「ライオンキング」が、クライマックスを奏でていく。ともに難易度レベル4のフライングキャメルスピンとステップシークエンス。コレオシークエンスをはさんで、さらにフィニッシュのフライング足替えコンビスピンとどんどん増していった躍動感が、アリーナ内に万雷の手拍子を響かせた。 演技後半はスピンやステップに輝く笑顔も織り交ぜながら、一気に観客を引き込んでいった。それでも、一抹の不安が脳裏をかすめた。岡島コーチとともに採点結果を待ったキス・アンド・クライで抱いた思いを、樋口はこう明かしている。 「4年前の気持ちが蘇ってきて、すごく苦しい時間だったんですけど」 平昌冬季五輪代表の有力候補として臨んだ4年前の全日本選手権。ダブルアクセルがシングルアクセルになるミスでSPを4位で発進した樋口は、翌日の公式練習中の着氷時に右足首を負傷する不運に見舞われてしまう。痛み止めを服用して強行出場したフリーは5位。トータルでも4位で表彰台を逃し、翌日の選考委員会の決定を待った。 当時の女子の代表枠は「2」で、全日本選手権を制した宮原知子がまず射止めた。GPファイナルの舞台に立った樋口か。あるいは全日本選手権準優勝の坂本か。選考委員会内でさまざまな議論が交わされた結果、坂本が2人目の代表に決まった。 自身の性格を「負けず嫌い。試合に負けた日なんかは、家に帰ってからヤバいです」と明かしたことがある樋口は、悔しさのあまり泣き崩れた。平昌冬季五輪後にイタリア・ミラノで開催された世界選手権代表に選出された、と岡島コーチから告げられても慰めにならない。すぐに自身のツイッターで「倍返しの始まり」とつぶやいた。 しかし、4年の歳月がたったいま、脳裏をかすめた不安は杞憂に終わった。 モニターに映し出されたフリーおよびトータルの得点は、ともにシーズンベストを更新する147.12点と221.78点。河辺に大差をつけてトップに立った樋口は、フリーの演技を待つ選手が坂本だけという状況下で表彰台を確定させた。 得点を見た瞬間から両手で顔を覆った樋口は、号泣しながら声にならない声をあげた。難易度の高いジャンプでミスを犯しても、高得点を出せる演技を追い求めてきた。心に巣食う弱さを克服し、4年前の自分を上回れた喜びが涙腺を決壊させた。 「気持ちで乗り切れました。全日本のためだけにずっと頑張ってきた今シーズンで、一番いい演技を出せた。精神的に成長した、と感じられる大会になりました」