【前半総括】「おむすび」を“雑な朝ドラ”と評価するのはまだ早い? 震災を描くために“ギャル”が欠かせなかった理由《あの朝ドラ金字塔との共通点も》
「チャレンジ枠」だからこそ選んだ平成という題材
朝ドラで「モデルなし・オリジナルの現代もの」はハードルが高い。2000年代の朝ドラにおいては「オリジナル現代もの」が20作品中17作品と圧倒的多数だったが、同路線を進めた結果、視聴率低迷が続いた。2010年代以降は、戦前・戦後を含めた「時代もの」、とりわけ実在のモデルありきのほうが「安牌」とされてきている(※本稿では終戦後から物語がスタートし、最終回で現在に到達しない作品を「戦後の『時代もの』と定義する)。 2010年代の朝ドラでは20作品中「オリジナル現代もの」は5作、2020年代においては10作品中「おかえりモネ」(2021年度前期)、「舞いあがれ!」(2022年度後期)、「おむすび」(2024年度後期)の3作だ。 このように、昨今の朝ドラで「オリジナル現代もの」は「チャレンジ枠」とされていることがよくわかる。脚本家の根本ノンジ氏をはじめとする本作の制作陣は、随所で異口同音に「『らんまん』『ブギウギ』『虎に翼』と『モデルありの時代もの』が3作続くので、『オリジナルの現代もの』に挑戦してみたかった」という主旨の発言をしている。 「おむすび」の舞台である「平成」は、終わってからまだ5年。「ふり返るには早かった」という指摘は、たしかに一理あるのかもしれない。平成というと、大多数の視聴者にとって「ついこの間の出来事」という感覚だろう。既視感があるものよりは、珍しいもの、知らないもののほうに惹かれるのが、世の常人の常だ。そんななか、本作の制作陣は平成を総括するという題材を選んだ。 このドラマの作り手は、平成を「懐かしんで」もらおうとはしていないと感じる。ひとえに、まだ手触りの残る「少し前」の平成に生きて、今も生きている市井の人々の足跡を、確かに残そうとしているのではなかろうか。平成に起こった2つの大きな震災で大切な人を喪い、心に傷を負った人たちの内面や、復興の陰にあった苦悩。「ギャル」と一括りにされて偏見の目に晒されてきた女の子たちにはそれぞれ様々な事情があったし、心意気もあった。人間は多面的であり、言葉に出していることや、表に見えていることだけが真実ではない。こうした「知ってるつもりで知らない」ことを、このドラマは描いている。 「おむすび」年内最後の放送は12月27日(金)。年明けは1月7日(月)から放送を再開する。結は、どんな幸せを見つけていくのだろうか。 NHK ※1 https://maidonanews.jp/article/15444114 ※2 https://maidonanews.jp/article/15465800
佐野華英