輪島・町野復旧のエンジンに 町中心部唯一の給油所再開
●廃業よぎるも「地元のため」 9月の奥能登豪雨で被災し、休業していた輪島市町野町粟蔵のガソリンスタンド(GS)が今月、営業を再開した。町野地区中心部で唯一の給油所「粟倉商店」。能登半島地震以降も店を開け続け、住民やボランティアの活動を支えてきたが、豪雨で給油設備が水没した。ガソリン価格の高止まりで厳しい経営環境が続く中、店主は廃業も考えたが、二重被災からの復活を目指す地域に燃料補給の拠点は欠かせない。復旧のエンジンを加速させるべく、再始動を決意した。 町野地区は元日の地震で甚大な被害を受け、粟倉伸一郎さん(70)が家族で営む粟倉商店では、一部の設備や整備場などが壊れた。しかし、ガソリンタンクや給油設備に大きな被害はなく、営業を続けた。 地震の直後、スタンドにはガソリンを求める客が押し寄せた。1週間ほどたって町野地区の孤立状態が解消されると、今度は緊急車両や復旧作業に当たる業者の給油拠点として重宝されるようになった。地震発生後の約1カ月間は停電で給油設備の電動モーターが動かず、手回しのポンプで燃料を供給した。 その後も、スタンドは地震で傷ついた設備の修復と並行して営業を継続した。「町野でも復旧が少しずつ本格化してきた」。粟倉さんがそう感じ始めた矢先、無情の雨がふるさとをのみ込んだ。 ●豪雨でレジ使えず 店には高さ約1メートルの濁流が押し寄せ、計量器など給油設備は水没。事務所も水に漬かってレジシステムが使えなくなり、書類や伝票は流された。故障した設備を新調するには相当の費用が見込まれ、粟倉さんは「もう店を畳もうか」と考えるまでに追い込まれた。 しかし、豪雨の後、住民や地元の事業者ら多くの人から「早く店を開けて」と頼まれ、考え直した。「町野の住民のため、町野を支えてくれる人たちのため、とにかく再開させよう」。粟倉商店の事務所で泥かきを手伝ってくれるボランティアの姿も決断を後押しした。 ●常連「ありがたい」 今月1日、40日ぶりに営業を再開した粟倉商店には、多くの利用者が訪れ、常連客という50代の女性は「再開してくれて助かる。本当にありがたい」とかみしめるように語った。「感謝の声をたくさんいただいた。地元の人の声に応えて頑張りたい」と粟倉さん。会社と自分の体力が続く限り、復旧復興のエネルギーを地域に供給し続ける。