630PS!4438万円のマセラッティMC20が搭載するF1由来「ネットゥーノ」エンジンが奏でる官能的なサウンドとは?
マセラティのNettuno(ネットゥーノ)エンジンを積んだ3モデルにサーキット(袖ケ浦フォレストレースウェイ)で試乗する機会に恵まれた。一般道を想定した試乗のため先導車付きではあったが、ネットゥーノの実力を体感するには充分だった。F1 に由来の「プレチャンバー」をロードカーエンジンとして世界初採用したというネットゥーノの魅力とは? 【写真を見る】630psのエンジンを搭載するマセラッティMC20。※本文中に画像が表示されない場合はこちらをクリック TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO :世良耕太 、マセラティ ジャパン
100%自社製、F1のテクノロジーをロードカーに応用したエンジンとは?
90度のバンク角を持つ3.0L・V6ツインターボエンジンの「ネットゥーノ」は、2020年にデビューしたスーパースポーツカー、MC20に搭載されることで世に出た。マセラティの自社開発エンジンである。最大の特徴は、プレチャンバーイグニッション(PCI)を適用していることだ。 PCIは点火プラグの電極まわりを副室(プレチャンバー)と呼ぶ小部屋で覆った構造を持つ。圧縮行程でこの中に入った混合気(狙いどおりに入れるには高度な技術が必要)に着火すると、副室に設けられた小さな穴からジェット噴流が噴き出し、主室の混合気を瞬時に燃焼させる。電極まわりから火炎が伝播していく従来の燃焼に比べて燃焼速度は格段に速く、そのぶん燃焼エネルギーが効率良く圧力に変換されて出力アップにつながる。 厳密に言うともっと高度な技術が組み合わせられているが、F1やSUPER GT GT500クラスに投入されているレーシングエンジンにとって、PCIはスタンダードな技術だ。それをマセラティは量産車のエンジンに適用したのである。他に例はなく、画期的なことだ。
プレチャンバーをロードカーでは世界初採用。2本のプラグで弱点を克服
レーシングエンジンはレーシングエンジンで特有の課題があるのと同様、PCIを量産エンジンに適用するには特有の課題が立ちはだかる。冷間時の始動性確保やアイドリングなど、低回転低負荷で安定的に燃焼させるのが難しい。これらの課題を解決するため、ネットゥーノは副室の外、つまり主室にも点火プラグを設けた。つまり、気筒あたり2本の点火プラグを持つ。 また、幅広いレンジで出力、トルク、燃費、エミッション性能を満足させるため、ポート噴射と直噴(吸気バルブ側に配置)を併用している。ウェイストゲートは負圧式ではなく電動。下世話な言い方をすれば、大変お金のかかったエンジンである。 このネットゥーノ、マセラティの量産モデルではスーパースポーツカーのMC20に適用されたのを手始めに、SUVのグレカーレ、FR4シータークーペのグラントゥーリズモに搭載された。エンジンはクルマのキャラクターに合わせて仕様が変えられている。 MC20(試乗車は開閉ルーフを持つチェロ)はカーボンモノコックの中央部にネットゥーノを搭載する。つまりミッドシップ。写真の展示用エンジンはまさにMC20が搭載するユニットで、背が低く、横に広いのがわかるだろうか。オイル潤滑システムはドライサンプであり、右バンク脇にオイルを強制回収するスカベンジポンプを抱えている。車両ミッドに搭載するため左右方向にスペースの余裕があり、ターボチャージャーは比較的余裕のある配置。最高出力は463kW(630ps)、最大トルクは730Nmで、量産3モデルのなかでは最大のスペックを誇る。組み合わせるトランスミッションは8速DCTだ。 グラントゥーリズモは実用的な後席を備える2ドアクーペだ。ネットゥーノはフロントに縦置きに搭載し、8速ATを組み合わせる。後輪だけでなく前輪にもトルクを配分する4WDだ。最高出力361kW(490ps)、最大トルク600Nmを発生するモデナと、最高出力404 kW (550 ps)、最大トルク650Nmを発生するトロフェオがあり、試乗したのは高出力版の後者だった。 グラントゥーリズモに搭載されるネットゥーノはウエットサンプである。両脇をサスペンションタワーに挟まれる都合上、ターボチャージャーはMC20に比べるとタイトな配置。エンジンルームを覗き込むと、前車軸よりも完全に後方に搭載されているのがわかる。前方に空いた空間からステアリングギヤボックス(ZF製電動EPS)が丸見えだ(前引きである)。 グレカーレのトップグレードに位置するトロフェオのパワートレーンはグラントゥーリズモと共通で、4WDであり、8速ATとの組み合わせであり、ウエットサンプだ。MC20のネットゥーノとグラントゥーリズモ/グレカーレのネットゥーノの相違点は、後者がオンデマンドシリンダー、つまり気筒休止システムを備えていることである。低車速低負荷時など特定の条件下では右バンクの3気筒が休止し、より高効率に運転する。
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