横浜F・マリノスが右膝重症で戦列を離れる宮市亮への思いで一致団結し鹿島との”天王山”に快勝…「どんな時も君は一人じゃない」
試合そのものも圧勝だった。シュート数はマリノスの17本に対して、鹿島はわずか2本に封じ込められた。大量7人が選出されたE-1代表勢で先発したのは西村と岩田だけだったが、層の厚さに宮市へのエールが加わって眼下の敵を一蹴した。 迎えた試合後。マリノスの選手たちは再び特製ユニフォームに着替えて、声援を送っていた宮市をピッチに迎え入れた。大切なチームメイトたちと一人ひとり握手し、力強く抱き合いながら、涙腺が決壊するのを宮市は我慢できなかった。 マイク越しに場内へ響いた宮市の挨拶は涙で震えていた。 「今日は最高の試合をありがとうございました。正直、こんなサプライズをしてくれるとは思っていなかったので本当に嬉しいです。みんなが素晴らしいプレーをしていたのでそれに尽きる。まだまだ長い道のりがありますけど、みんなで頑張っていきましょう」 宮市が言及した長い道のりは、マリノスの3シーズンぶり5度目のリーグ戦優勝だけでなく、手術とリハビリをへた後に待つ自身の復帰も指している気がしてならない。 もっとも、3試合ぶりの白星をあげて、2位の鹿島との勝ち点差を8ポイントに広げた状況は優勝を大きく引き寄せた。暫定3位の柏レイソル、4位のセレッソ大阪、6位のサンフレッチェ広島との対戦をすでに終えている状況も追い風になる。 もちろん油断はできないし、一戦必勝の姿勢も変わらない。それでも5位の川崎フロンターレとの次節(8月7日)、ACL決勝トーナメントをはさんだ後の7位のFC東京との第28節(9月3日)が残されたヤマになってくる可能性が高い。 ブンデスリーガ2部のザンクトパウリから昨夏に加入した宮市と、同じ右ウイングで切磋琢磨してきたFW水沼宏太(32)は、韓国戦で先発した自身と交代で投入された宮市が、十数分後にアクシデントに見舞われた展開に複雑な思いを抱えていた。 「あのときは『亮、頼むぞ』と言って交代していたので。僕自身もすごく悔しいし、つらいけど、それ以上に亮の方が誰よりもその気持ちが強い。何も出ないぐらい泣いたと言っていたのに、今日はああやって明るく振る舞ってくれて」 涙が尽きるまで泣いたと宮市から告げられたのは代表活動から戻り、マリノスの練習に復帰した前日29日だった。ただ、その時点で宮市の話しはすでに過去形だった。努めて前を向く宮市の姿に胸を打たれた水沼は、チームとしての誓いを新たにする。 「僕たちにできることと言ったら、勝ち続けて優勝して、亮にシャーレを掲げさせてあげること。大切な仲間のためにも、一生懸命頑張っていきたい」 宮市の笑顔がマリノスを鼓舞し、そしてファン・サポーターを含めた、マリノスに関わるすべての人々が宮市へエールを送る。さらに絆を深めた一夜はマリノスの戴冠、そして宮市の復活へ向けた忘れられないマイルストーンになる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)