【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その11
「春の山菜のフリット 山椒味噌添え」というのが気になった。イタリアンに山椒味噌?という声も聞こえそうだけれど、近年ヨーロッパでは日本の抹茶、柑橘や香辛料が取り入れられているというから、シェフの目論見に身を委ねてみたくなる。 お通しは、たっぷりとチーズを振りかけた生のマッシュルームだった。粋なスタートに期待が膨らむ。
やがて運ばれてきた皿には、3,4種類の山菜が薄い衣に包まれて、品よく盛られていた。フキノトウを口に運ぶと、さくりと軽快な歯応えの後に、あの苦味と鮮烈な青い香りがやってくる。外湯巡りで疲れた身体が一気に覚醒して、食欲が湧いてきた。
さて、次は山椒味噌をちょいと纏わせて…。香りと香りが喧嘩するかと思ったのだがあにはからんや、余韻に深みが増して後を曳く旨さになる。まいりました。これはもはや、何料理などとカテゴライズする話ではない。旨い………それだけでいいんだ。シェフが勧めてくれた丹波のスパークリングワインは揚げ物との相性もよく、この先が楽しみになる。
次は、「ホタルイカのアヒージョ」。風呂上りのビアレストランで但馬牛を楽しんだので、ここでは魚介を選ぶことにした。オイルに溶けだしたホタルイカのコクが口いっぱいに広がって、バゲットを追加したのは言うまでもない…悶絶。これまたワインを呼ぶわけで、まんまとシェフの術中にハマってしまったのである。
この日のお薦めを尋ねると、牡蠣がいいと言う。メニューを開いたら、「久美浜産真牡蠣の蒸し焼き ジンライム風味」とあった。15㎞ほど離れた久美浜湾の産といえば、まさに地元の味。でもジンライム風味というのは未体験だ。開高健翁の真似をするわけではないが、ラフロイグくらいなら背伸びして垂らすことはある。しかし、シェフは「牡蠣とよく合うんですよ」と、顔を崩した。そりゃ、抗えない…この笑顔に抗えるはずがございません。
思い返せば、あの晩のハイライトはこの蒸し焼きだった。熱々の牡蠣から立ちのぼるジンとライムの香り…口に入れれば牡蠣の濃厚な旨みとライムの爽やかな酸味が喉の奥まで広がっていく。シェフの言葉に偽りはなかった、生牡蠣にレモンやライムを合わせたことはあったけれど、蒸し焼きにジンライムがこれほど合うとは思いもしなかった。驚きというほかない…彼のセンスにひれ伏すのみである。