【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その11
1週間に8日、麺を食べていたいほどの麺っ食いなので、パスタが気になる。で、「あさりと木の芽、タケノコのペペロンチーノ」を頼んでみた。またまた山椒だけど、この組み合わせは確信犯だろうから、どうしても味わいたかった。想像していたのは、あさりとタケノコの上にアクセントとして振りかけられた山椒の姿…。しかし、やってきたのは、皿を緑色に染めてしまうような大量の山椒だった。これはもはや脇役や香りづけのハーブ、スパイスといったレベルではない。パスタを支配する堂々たる存在で、その大胆さに目を見張った。
それは2時間ほどの至福だった。料理のどれもがワインとの相性を巧みに計算されたものだったけれど、何よりも食材に真摯に向き合うシェフの心意気が溢れていた。いったいいつからここで、こんな空間を供してきたんだろう…そんな素朴な想いをぶつけてみると、その前歴に合点がいった。 「銀座でソムリエをやっていたんです。でも、いい食材を捜して近々、別の場所に移ろうと思っているんです」、そう言って、またあの照れくさそうな微笑みを見せた。さすが老舗の温泉街。こんな隠し玉、いや珠玉の空間を潜ませていたなんて…。
【筆者の紹介】 三浦 修 BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。 【ひねもすのたりワゴン生活】 旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。
三浦 修