【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その11
奇跡の出会い…温泉街のワイン酒場 そこは、銀座のソムリエが開いたイタリアンの魔窟
城崎といえばカニ料理…冬になれば、至高のズワイガニを求めて全国から食通が押しかける。この時は季節を過ぎていたのでカニを諦めてはいたものの、やはり城崎の海の幸は楽しみだった。歴史ある温泉街だから、老舗の美味しい店もたくさんあるのではないかと期待していたのである。しかし、前回触れたように、まさかのピンチ!酒を楽しめる夕餉の店が多くないなんて思いもしなかった。
半ばあきらめ気分…番頭が気を遣って渡してくれたクーポンで、湯上りのビールを楽しんでいた時、日暮れ前に見かけた一軒の店を思い出したのだった。小体なレストラン…いや、カウンターバーのような設えは、シンプルだったけれど、美味い料理を出す店に共通する何ともいえない雰囲気があった。とはいえ、もう日は沈んで、気の早い呑兵衛なら盃を傾けている時間である。席が取れるとは思わなかったが、宝くじだって買わなければ当たることもない。ダメ元で電話を掛けてみたのが幸運を呼んでくれた。店の雰囲気そのままで饒舌ではない店主に事情を話すと、まさかの最後の2席が転がり込んできたのだった。
席数が少ないせいだろうか…「ほかのお客様も7時半くらいにお越しになりますので、その頃でお願いします」と言う。一斉開始のコースオンリー?それともいろいろな縛りがある店?注文の多い料理店?(笑)…頭の中を疑問が渦巻いたけれど、あの空間で夕食がとれるのだから文句はない。とにかく一度離れていった運を戻してくれた縁に感謝である。訪ねたこともないのに、至福の夕餉が約束されたような気がした。
指示された時刻に出かけてみると、あのカウンターに4人の女性が座ってすでに盛り上がっていた。漏れてくる話から大阪のグループらしい。ボーダー柄のTシャツにニットキャップというカジュアルな姿のシェフは、ちょっとはにかんだような表情で迎えてくれる。経験上、こういう笑顔の店は外れだったことがない。接客も料理も身のこなしが実にきびきびとしていてとても心地いい。地元の食材とお酒の組み合わせをコンセプトにしているとのことで、まさに捜していた一軒…出会った幸運に心が躍る。どうやら、一斉スタートでもコース料理のみでもないようす。先客はシェフのお任せにしたようで、料理が現れるたびに嬌声を上げている。 メニューは大学ノートにボールペンでびっしりと書き込まれていた。ページごとに日付けが入っていて、毎日変わるらしい。その筆跡にシェフの想いと情熱が溢れていて、眺めているだけで嬉しくなってしまう。うん、やっぱりここはいい店だ。