2000年には日本にグローバル旗艦店をオープン、イタリアの“カジュアルの帝王”ベネトンが日本撤退に至るまで
ベネトンの2022年度の売上高は10億400万ユーロ(約1651億円)、純損失は8100万ユーロ(約133億円)。2023年度の売上高は11億ユーロ(約1808億円)、純損失は2億3000万ユーロ(約378億円)で、増収となったものの赤字幅が拡大している。 しかし一方で、親会社のエディツィオーネの業績は好調である。1981年にベネトン家の持ち株会社として創業した同社は、輸送インフラ、デジタルインフラ、金融機関、飲食・飲料・旅行・小売、不動産、農業、衣料、テキスタイルと幅広いジャンルの事業を展開している。2023年度の売上高は1兆5622億円で、2023年12月31日時点の純資産価値は1兆9240億円にも及ぶヨーロッパでも有数の持ち株会社なのだ。
筆者はこの10年、ピッティ・イマージネ・ウオモとミラノ・ファッションウィークの取材で頻繁にイタリアを訪れているが、ベネトンの店舗を現地で見たのは数えるほどしかない。調べてみると、現時点でフィレンツェには3店舗あるものの、ファッションの中心地であるミラノには2店舗しかなかった。 現在のベネトンの商品の価格帯は、ファストでもハイファッションでもない中価格帯で、直営のECではメンズのピュアカシミアのセーターが268ドル、ウィメンズのワイドパンツが108ドル、ウィメンズのベルベットのトレンチコートが268ドルとなっている。
いわゆる日本の百貨店アパレルに相当する価格帯で、安いか高いかの二択になりつつある現在のアパレル業界ではもっとも厳しいゾーンとなる。デザイン的にもかつてのポップさは影をひそめ、どこにでもある無難なデザインのものが多い印象を受ける。 ホームページには現時点で世界3600店舗を持つと書いてあるが、これがすべて直営なわけがないので、伝統的なフランチャイズ形式、代理店経由の小売店での販売を継続しているのは明らかだ。
しかしECは自社運営だと思われるので、SPA形式とフランチャイズ形式、代理店経由の小売店での販売を中途半端に併用していると考えられる。このビジネスモデル自体に抜本的な改革が必要なのは言うまでもない。 ■デザイン面での改革が必須 そして何よりも必要なのはデザイン面の改革である。個人的にこの10年ほど80~90年代のイタリアの古着を掘っていることもあり、ベネトンの全盛期の服に触れることがある。着るだけで元気が出るようなカラフルで斬新なデザインはもちろん、縫製のクオリティも素晴らしいものがあり、現代でも十分通用すると感じる。
こうしたブランドの豊富な遺産=アーカイブを現代的に再編集できるクリエイティブディレクターを起用し、イタリア発のアフォーダブル・ラグジュアリー(手に届く価格の贅沢)なポジションを目指せば、復活が見えてくるのではないだろうか?
増田 海治郎 :ファッションジャーナリスト