ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは
浅井 義裕(明治大学 商学部 教授) 日銀の低金利政策で収益性低下に拍車がかかり、厳しい状況に置かれている地方銀行や信用金庫。その主な顧客である中小企業は、政府の対コロナ支援の縮小に伴い倒産数が増加しています。さらには地方の人口減少という長期的課題を抱えるなかで、地域金融機関には新しい経営のあり方が求められます。 ◇「コロナ後」に中小企業の倒産が急増する理由 2020年からのコロナ禍では、中小企業の多くが売上を落としましたが、実は資金繰りに苦しんだ企業はそれほど多くはありませんでした。 その理由のひとつが、政府が実施した実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」です。これを利用することで、中小企業は金融機関からスムーズに借入ができました。私が中小企業を対象に行ったアンケート調査の結果をみても、緊急手段である生命保険の解約等による資金調達はリーマンショックの時の方が多い印象でした。 コロナ禍での企業倒産を避けたいという政府の狙いは、ゼロゼロ融資によってある程度は実現したと評価できます。実際、東京商工リサーチの調べによれば、コロナ期にあたる2020年の倒産件数は7,773件であり1991年以降で最低水準でした。翌2021年は6,030件とさらに減少し、2022年も6,428件と記録的な低水準で抑えられました。 ところが、コロナ禍がひと段落して少しずつ日常が戻ってきた2023年、倒産する中小企業は増加しました。 同じく東京商工リサーチによると、2023年の倒産件数は8,690件で、前年比35.1%増と大幅に上昇。3年を期限とするゼロゼロ融資の返済が本格化したことに加え、記録的円安や物価高等の影響等が重なったのが理由と考えられます。さらに2024年4月にはゼロゼロ融資の返済がピークを迎えるので、年間の倒産数は1万件の大台を越える可能性があるとの予測もでています。 中小企業において、ゼロゼロ融資という一種の「麻酔薬」が切れ始めた一方で、同じ地域のマーケットを共有する地方銀行や信用金庫、信用組合などの地域金融機関もまた、ポストコロナの時代への対応を迫られます。 もともと地域金融機関については、数年前から金融庁や日本銀行が「全国の地銀の半数以上が本業赤字である」「2028年度に地銀の6割は最終赤字となる」といったレポートを公開しており、マスメディアでも「地銀の危機」が繰り返し取り沙汰されてきました。 これはコロナ禍の影響というよりも、日本経済全体に関連する長期的なトレンドです。日銀による量的質的金融緩和政策(とくに黒田総裁時代のイールドカーブコントロール)の弊害と見る向きもありますが、それは短期的な影響にすぎず、根本的問題としては日本の少子高齢化、なかでも地方に顕著な生産年齢人口の減少によって生じていると考えられます。