ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは
◇地方金融機関に期待される新たな中小企業支援 今後、中小企業はコロナ期に負った債務を返済しつつ、自らの事業構造を変革しなければなりません。地域金融機関は融資だけでなく、その変革を手助けする「本業支援」の方へ力を入れていくべきではないでしょうか。 人口減少にともなう経済構造の変化や低金利によって、地方金融機関の経営環境が厳しさを増す中で、2021年5月には改正銀行法が施行され、銀行などの預金取扱機関の「業務範囲規則」の緩和が進められました。 この法改正によって参入が認められた代表例が「地域商社業務」と「人材派遣業務」です。 銀行業に隣接する分野での事業を営むことを認めて、経済学の言葉でいう「範囲の経済」を働かせようという狙いだと思われます。これは、関連事業を多角化するとシナジーが生じ、別々の企業が同じ事業をするよりもコスト上で優位に立てるという考え方です。 地域商社業務は、地域商品の仕入れや販売を通じて、取引先企業の営業活動の一助を担ったり地域商品のブランディングなどを手掛けるといった内容になります。私たちが行ったアンケートでも、中小企業の経営者は「顧客・販路の確保・開拓」や「仕入れ先・外注先の確保・開拓」に苦労しているという結果が出ており、地域商社業務のニーズは潜在していると思われます。 また、従業員数10人以上など、ある程度の規模を持つ中小企業には、「従業員の確保・人材育成」のニーズがあることもわかっています。すでに2018年の金融庁の監督指針の改正で、金融機関が企業に対して有料で人材紹介を行うことが可能となっていましたが、加えて2021年の改正銀行法では登録型人材派遣の事業が認められました。 私たちの研究によれば、地域商社業務は経営者側の認知度が非常に低く、地域商社を運営している地域金融機関自体も少ないので、いまだ中小企業にとって身近な存在になれていないという課題があります。人材紹介については一定以上の規模の中小企業には認知されつつありますが、実際に利用している企業数はわずかです。 しかしながら、詳しく分析すると、融資などを通じてすでに信頼関係を築いている場合や、担当者や支店長が親身になり「数字に表れない強み」などを理解していると感じられている場合ほど、地域商社業務や人材派遣業務などの新規ビジネスに対する経営者側の期待感が高い傾向にあることがわかりました。 「融資」というコアになる業務を深化させることで、新しい支援となる周辺業務を展開させていくことが可能になるといえるでしょう。30年後や40年後を見据えれば、これらは地域金融機関にとってコアビジネスに取って代わる可能性もあります。ポストコロナの時代は、その新たな収益源の種まきを行う段階というイメージです。 中小企業は、日本の全企業のうち企業数で99.7%、従業員数で68.8%を占めており、日本の付加価値額の5割以上を創造しています。中小企業の価値を高めていくことは日本経済全体の強さにつながりますし、それを支える地域金融機関の役割はポストコロナでさらに重要になるものと思います。
浅井 義裕(明治大学 商学部 教授)