ポストコロナ時代における地方金融機関の「新ビジネス」とは
◇預金と融資だけでは地銀経営は難しくなる 中小企業にとって、依然として資金繰りの問題は重要ではありますが、多くのデータやアンケート調査の結果は、現在の企業はかつてほど「資金不足主体」ではない(≒資金調達の必要がない)ことを示しています。不景気で企業の投資意欲が落ち、内部留保が進んでいることが原因でしょう。 このまま衰退する地域経済のなかで資金需要が低下していくと、借り手は少なく、借りる量も少なくなり、貸出金利も下がっていくので、地域金融機関の経営は苦しくなっていきます。もはや預金・融資の利ざやによる収益では、地銀や信用金庫の経営は成り立たなくなるかもしれません。 したがって、地域金融機関はこれまでの預貸業務に徹するのではなく、新しいビジネスモデルを模索し、地域の企業と共に企業価値を高めていく関係を構築することが必要になるでしょう。 そもそも、中小企業と地域金融機関をめぐる状況は、この30年で変化を余儀なくされてきました。1980年代の金融自由化以前は、大銀行は大企業へ融資をして、そこから十分な利益を得られていましたが、海外で金融の自由化が進み、日本でも社債による資金調達が緩和されると、大企業の大銀行離れが始まりました。 従来の融資先を失った大銀行は、中小企業にも積極的に融資を行うようになりました。もともと中小企業に融資をしていた地域金融機関の中には優良な顧客を奪われ、リゾート融資のようなリスクの高い融資に傾倒し、不良債権問題によって経営破綻するところも出てきました。とくに、第二地銀(旧相互銀行)や、社債と競合する長期信用銀行は次々と消滅していきました。 そうした流れの中、2000年代以降は中小企業金融再建の方策として「リレーションシップバンキング」が注目されました。リレーションシップバンキングとは、「貸出などの取引を通じた借り手と金融機関の密接な結びつき」を指します。簡単にいうと、貸し手が借り手と長く親密に付き合うことによって、両者が持つ情報量の差を埋めようという方針です。 とくに財務情報等の開示が大企業に劣る中小企業では、ソフト情報(経営者のやる気や社内の雰囲気といった財務諸表に記載されない情報)の蓄積が融資の円滑化の基礎となります。中小企業金融の研究においては、企業と金融機関との取引年月の長さや取引行数、あるいは物理的な距離をもデータとして用いて分析することもあります。 大銀行に対し、地域金融機関が相対的な強みを持つことができるとすれば、それはリレーションシップバンキングの土台となる地域的な関係性の強さ、すなわち蓄積されたソフト情報です。もちろん貸出先の情報生産活動はどの金融機関にとっても重要ですが、主な仕事が融資となる地域金融機関においてはとくに重要となります。