「中高年の転職の厳しさを知ってほしい」憧れの職業パイロットから、アルバイト掛け持ち生活に転落 「実家がなければホームレスだった」
華やかなイメージと高収入から「憧れの職業」と言われるパイロット。津雲渡さん(仮名、50歳)は数年前まで、国内の航空会社に勤務するパイロットだったが、事情があって退職を余儀なくされた。その後、別の航空会社への転職が決まったが、その「内定」は一転して白紙に。待っていたのは、その日暮らしのアルバイト生活だった。 「実家がなければホームレスになっていた。コロナ禍で大学新卒の内定取り消しが社会問題になったが、中高年が新たな就職先を見つけるのがいかに厳しいか分かってほしい」。天国から地獄に転げ落ちるような経験。憤りを隠せない津雲さんが事の顛末を語った。(共同通信=宮本寛) ▽パイロットは夢だった パイロットに憧れたきっかけは子どもの頃に見た人気アニメ「機動戦士ガンダム」や、パイロットが主人公の漫画「エリア88」、「ザ・コクピット」だった。 高校卒業後、父親の経営する自動車修理工場で車検整備をしながら資金をため、2001年、渡米して訓練を開始。その後、日本で事業用の飛行ライセンスを取得した。2006年に地方を拠点とする航空会社に入社し、翌年、プロペラ機の副操縦士となった。
順風満帆に思えた人生はすぐに暗転する。2008年、パイロットで構成する組合の執行部に入った。入りたくはなかったが、推薦を断れば今後の勤務に悪影響を及ぼすことを恐れ、しぶしぶ受け入れたという。 「当時の航空業界では、大手の組合が過激だったことは知られていますが、この組合もかなり過激で、平気でストを打っていた」 執行部ではあるものの、組合の「専従」ではなかった。このため、月に70時間ほどのフライトをこなしながら、組合活動に100時間以上も従事。「徹夜明けでフライトもしていた」という。 ▽疲労状態のはずが「不眠症」にされ… そのうち、体が悲鳴を上げた。動悸、息切れ、めまい…。「なんとか睡眠時間を確保しよう」と会社に相談。すると「精神科に行くように」と促された。指定された病院の医師はこう告げた。「うつ状態です」。単なる睡眠不足と考えていた津雲さんは疑問に思った。診断書の作成を断り、自分で探した大学病院で受診したところ、「疲労状態」と診断された。