「中高年の転職の厳しさを知ってほしい」憧れの職業パイロットから、アルバイト掛け持ち生活に転落 「実家がなければホームレスだった」
それでも不採用決定を覆さない。言い分はこうだ。「採用すると、精神科医を産業医として雇用しなければならない」「以前と比べ、全身の健康管理が求められるようになり、当社に精神科の医者がおらず、前例がない」。医療面でのケアが難しいことを前面に押し出した回答を繰り返した。 ▽ネットカフェ生活、公園で寝泊まりも 津雲さんの生活は一気に暗転した。住んでいた部屋は採用試験合格を受けて解約していた。羽田空港にあるプライベート用の訓練施設を自腹で借りるなどしていた。既に貯金は底を突きかけていた。 仕方なく、ネットカフェで生活しながら就職活動を再開したが、貯金は瞬く間に減っていく。公園で寝泊まりもした上、関東北部にある実家に戻った。都市部ではないため働き口が乏しく、ガソリンスタンドやラーメン屋でのアルバイト生活が始まった。 朝から深夜まで働き、睡眠時間は3時間。月収は20万円ちょっと。さらにラーメン屋では疲れて皿を割るごとに減額され、風邪で休んだ月の収入は10万円程度にまで落ち込んだ。合格取り消しからの5年間で4つの非正規を渡り歩き、半年間は無職にもなった。
「このままでは死ぬな」。約130社に履歴書を送ったが、面接までこぎ着けたのは3社だけ。昨年7月から、夜勤中心の会社で正社員としてようやく働けることになった。 何よりつらかったのは、実家の父の落胆ぶりと、介護施設に入所する母をより設備の整った場所に移してあげることができなくなったこと。ジェットスターの採用取り消し直後は「みっともなくて、親には言えない。村には帰れない」と思ったが、ほかに選択肢はなかった。 ▽「裁判はやめた方がいい」という弁護士 人生設計を根底から覆されたジェットスターへの訴訟を考え、弁護士を訪ね歩いたが、当初は誰も津雲さんに寄り添ってはくれなかった。 最初に法テラスを訪れた際はこう言われたという。 「相手が大きい会社だからやめた方がいい。人格否定とかされますよ」 次に相談した弁護士は「契約書を交わしていないのであれば、内定には当たらない。せいぜい内々定の段階だし、訴訟をしても赤字になる」。