「松茸食べ放題の天国」だった"幸せの国"ブータン 「爆発的にうめえええっ!」と旅行作家の石田ゆうすけさんが心底感動した手料理とは
今年は不作、昨年は約10種類の松茸料理が出た
まさかこれでおしまい?肉体を酷使してやっとたどり着いた松茸祭りの松茸が、まさかこのピリ辛にんにく生姜味の松茸だけ? ち、が、う、だろー!とかつていた女性国会議員のように絶叫したくなったが、ええいもういい、祭りはいい、せめて松茸をたらふく喰ってやる、生の松茸を買って宿で自炊しよう、そう考え直し、販売ブースに行ったら松茸は売り切れて一つも残っていなかった。あはは。 そこへ祭りの実行委員を名乗る男が話しかけてきた。 「この松茸祭りをどう思いますか?」 「どこに松茸があるんだ!」 「今年はあまりとれなかったんです。去年は十種類ぐらいの松茸料理が出たんですが」 ほんまか?それはほんまにほんまのことか? 僕の疑惑の目をよそに男性はマイペースで「日本ではこの祭りのことがどれぐらい知られていますか?」「日本人の姿があまり見えませんが、これから何人ぐらい来そうですか?」といったことばかり聞いてくる。会場を歩きまわって目にした日本人はさっきのガイドブックの記者だけだ(このあと海外青年協力隊の日本人が何人か来たが)。 そこへ酔っぱらったおばさんがやってきて、「あんた楽しんでる?」みたいなことを言い、 僕の手をとって踊りながらクルクル回った。僕もやけくそでおばさんに合わせてクルクル回ったら、まわりのブータン人がやんやとはやし始めた。するとおばさんはますますハッスルして僕と一緒にルンバルンバ……って、これのどこが松茸祭りじゃあああっ!
松茸が入った大きな袋が!
適当なところで切り上げ、夕方になる前に車にのった。自転車で走ってきた道を車で一気に駆け抜け、出発地であるパロの国際空港に戻るという予定だった。もっとも、悪路のために車でも一日では走りきれず、途中で一泊する。 村の出口でテンジンが車をとめるよう運転手に言った。テンジンは車の窓を開けて村の男性に声をかけ、何か話している。男性は頷き、家に入ったかと思うと、大きな袋を抱えて現れた。 「わわ、松茸やん!」 「この人は知り合いなんです」 ダメ元で聞いたらちょうど在庫があったというのだ。どうやらテンジンは落胆している僕を見て、なんとかできないかと気をもんでいたらしい。あんた最高のガイドだよ! 袋の中には大きい松茸が十五本ほど入っていて、五百ヌルタム、日本円でなんと八百円! その夜、村のホテルに着き、厨房を貸してもらえないか聞くと、宿はすぐに了承してくれた。