【対談】毛利悠子×イ・スッキョン:ヴェネチア・ビエンナーレ2024日本館での展示を語る
抵抗と革命
──今回展示が実現してみてどうでしたか。 イ:私たちが議論してきたことが、閉じられたものではなく、現在進行形のものとして現実化できたことをとても嬉しく思っています。それは、現在という時を語ることについての作品をいかにつくることができるか、ということが重要な問題としてあったんだと思います。なにかを性急に結論づけるのではないかたちで。悠子がそれを実現したことを嬉しく思っています。 毛利:看視の人たちとかこのパビリオンを管理してくれる人たちも、一緒に空間を見守っていくなかで、さまざまなものを発見してくれると思います。 イ:いろんな人が作品を見守っているからね。 ──観客の反応はいかがでしたか。 イ:反応はとてもよいです。多くの友人やキュレーター、アーティストと話しましたが、彼らはこのプロジェクトとインスタレーションについてかなり好意的でした。『アートニューズペーパー』誌では、トップ5のパビリオンに選出されています。だから良い反応をもっと期待できますね。 ──スッキョンさんの書かれたステートメントを拝読しました。そこで気候変動の危機についても触れられていました。同時に毛利さんの作品は、とても楽天的な空気に満ちていますね。 イ:この危機は人類に共通するとても巨大なものだと思うけど、その解決は小さな行為や個人的なことにかかっていると思います。悠子の作品は、そのことを物語っています。それはとても小さな、個人的なものでなければならないのです。 ──いまのお話は毛利さんが以前に語られていた「抵抗」というキーワードにもつながりますね。 毛利:2019年に、十和田市現代美術館で個展を開催しました。そのときの展示のタイトルが「ただし抵抗はあるものとする」でした。小さな抵抗ですら、革命をつくりだせると。私たちが巨大な革命を一挙に起こすことは簡単ではありません。その代わりに、それぞれが小さく、ささやかな抵抗や運動を起こさなければならない。それがより大きな革命につながるからです。レコードをスクラッチする小さな摩擦ですらひとつの小さな革命になりうると、あのとき考えていました。2019年のその考えは、この展示にも引き継がれています。果物も、安定しない、変化する電気の抵抗値をもっています。安定はしていないけれど、この小さな振動が、いつか、もしかしたら大きな動きにつながるかもしれない。その意味で革命(Revolution)という言葉は興味深いと思います。それは、社会を変革するという意味もあるけれど、天体の公転のことも意味しているからです。それは先ほど言った回路を回りつづける電子のように、この世界でつねに起きている自然の運動法則なのです。だから私は「革命」という言葉に関心があります。 ──毛利さんの作品は特定の政治的問題に言及するものではありませんが、やはり政治的なのであり、かつ政治(politics)と詩学(poetics)を横断するものなのだと思います。 毛利:ありがとうございます。そうおっしゃっていただけて光栄です。
Ryo Sawayama