あなたは使える?「相続土地国庫帰属制度」四つのアドバイス
相続した土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」は、土地を持て余している人には便利な制度だが、適用要件は厳しく、全ての土地を引き取ってくれるわけではない。どのような土地が制度に向いているのか。制度に詳しい司法書士法人ミラシア代表の元木翼さんに聞いた。【毎日新聞経済プレミア・山口敦雄】 ――どのような人が相続土地国庫帰属制度の利用に向いていますか。 ◆相続土地国庫帰属制度の活用に向いているのは、相続した土地の維持・管理が困難▽相続した土地をうまく活用できない▽相続時に不要な土地だけを手放したい▽民間業者に引き取ってもらうのが不安――などの状況にある人だ。 遠方に住んでいたり、高齢であったりすると、相続した土地の維持・管理が難しい。農地や山林など、使用目的が限られている土地は相続しても活用ができない場合も多くある。そのまま保有するよりも国に引き取ってもらった方がよいだろう。 また、相続時に土地だけが不要であっても、現行の相続放棄の制度では、特定の財産だけを放棄することができない。 お金を支払い、民間業者に不動産を引き取ってもらう人が増えているが、民間業者では不安という人もいる。しかし、国庫帰属制度の場合、引き取り手は国なので安心だ。 ――制度のデメリットにはどのような点がありますか。 ◆デメリットとしては3点が挙げられる。 第一に、利用できる土地が限られる。そもそも、自分で土地を購入した人は利用できず、相続または相続人への遺贈で引き継いだ土地でなければならないという点があまり知られていない。 第二に、制度を利用するには手続き費用がかかる。審査手数料と負担金を支払う必要がある。審査手数料は土地1筆あたり1万4000円。負担金は、原則20万円、土地によってはそれ以上にかかる場合も少なくない。 第三に、申請手続きには相当の手間と時間がかかる。申請手続きには資料の収集や申請書の作成が必要で、国での審査期間も相当の時間を要する。実際に国に帰属させるまでには、現地調査が必要なことなどを考慮すれば、最低でも半年、場合によっては1年以上を要するケースも少なくないだろう。 ――制度の利用を考えている人へのアドバイスはありますか。 ◆アドバイスとしては、事前の情報収集▽土地の価値を正確に把握▽制度利用の要件を十分に確認▽専門家への相談――の四つが重要だ。 まず事前の情報収集は入念にする。申請の前には、制度の詳細や手続き・費用などについて十分な情報を集める必要がある。制度の公式ホームページでは、一般向けに分かりやすく説明されている。専門家(司法書士・弁護士・行政書士)からの説明を受けることも重要だ。 次に相続した土地の価値を正確に把握することが重要だ。市場価値や将来の開発計画などを考慮し、所有を続けるメリットとデメリットをしっかりと比較検討してほしい。 制度利用の要件を十分に確認することも重要だ。対象となる土地について具体的な要件を確認し、適用されるかどうかを確認する必要がある。 相続土地国庫帰属制度は要件が厳しく手続きが煩雑だ。自身での調査に限界を感じたら、専門家の助言を受けることを検討した方が良い。手間や誤解を防ぎ、スムーズに手続きを進めることができる。なおこの制度による申請書類の作成を代行できるのは弁護士、司法書士、行政書士のみだ。 ――相続土地国庫帰属制度以外の選択肢として、お金を支払い、民間業者に土地を引き取ってもらう人もいます。 ◆業者を利用するメリットは相続土地国庫帰属制度を利用する場合よりも早く、不要な土地を処分することができることだ。ケースによっては、相続土地国庫帰属制度よりも安価で処分できる。 デメリットもある。相続土地国庫帰属制度など他の手段と比較して、丁寧に検討を行ってくれる良心的な業者もいる一方で、高額な引き取り料金などを請求されるトラブルもあるようだ。慎重に業者の質を見極めることが重要だ。