現代人が失った「性欲」と「エロス」を取り戻す物語…50年ぶりの新生『エマニュエル』、映画の見どころとは?
私たちを「快楽」から縛るものとは?
女性が男性の所有物のように扱われていた時代から50年経ったいまでさえ、リビドーを麻痺させるほどに私たちを快楽から縛っているものは、一体何なのか。私たちは巷にあふれるさまざまなコンテンツを消費しているように見えて、実際には欲しくもないものを欲しくもない時に欲しいと思い込まされているだけで、コンテンツに消費させられているのかもしれない。そんなまやかしと刷り込みの欲望に、純粋な悦びなど感じるはずもないのに。 本来プレジャーとは、アマゾンやウーバーでタイパやコスパを気にしながら得られるものではない。そこには血と肉が通った人間同士の、時に面倒で複雑なコミュニケーションが必要とされ、エマニュエルのようにそこに飛び込む勇気を持てた者だけが味わえる、甘い蜜のようなものだから。 ところで「誰も傷つかない、責任も障害も生じない、完全に自由な性的ファンタジー」、そんな一見アンリアリスティックなこの映画の世界観が成立しているのはなぜなのか。それは、香港という植民地的背景と特殊な成り立ちを持つ資本主義都市を舞台にしていることも大きいのではないか。この街には、誰もが旅人のような、一種の浮遊感と非日常的な空気がある。古来よりフランス文学や映画では、恋愛はブルジョワジーが倦怠への恐れから嗜む現実逃避の娯楽のひとつでしかないが、エマニュエルもまた、そんな香港を旅する日常に飽いた富裕層のフランス人なのだ。 『エマニュエル』 ●監督・共同脚本/オードレイ・ディヴァン ●原案/『エマニエル夫人』 エマニエル・アルサン著 ●出演/ノエミ・メルラン、ウィル・シャープ、ジェイミー・キャンベル・バウアー、チャチャ・ホアン、アンソニー・ウォン、ナオミ・ワッツ ほか ●2024年、フランス映画 ●105分 ●R15+ ●配給/ギャガ ●2025年1月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開。 © 2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS - GOODFELLAS - PATHÉ FILMS
text : Moyuru Sakai