「完全に負け戦」EU離脱後の英国が進む茨の道
ついに欧州連合(EU)からの離脱を果たした英国。2016年の国民投票から4年を経ての「ブレグジット」(Brexit)だった。この離脱によって、英国経済はどんな影響を受けるのか。英国には今後どんな未来が待ち受けているのか。EUなど欧州経済に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介氏に聞いた。 【地図】EU離脱の「英国」どこを指す? イングランドとの違いは
終わらない「合意なき離脱」危機
1月31日、英国はEUを離脱した。懸案の離脱条件を定めた協定案は、EU側との合意が済み、メイ内閣時代に3度否決した英国議会でも承認がなされ、いわゆる「合意なき離脱」は回避された。離脱当日には英国国旗を振って離脱を喜ぶ国民たちの姿が報じられた。しかし、土田氏はこれで万事が解決したわけではないと指摘する。
「これまで、いわゆる『ハードブレグジット(合意なき離脱)』が常に意識されてきたが、今年12月で(EU離脱の)移行期間が終了するなら、合意なき離脱と同じことが起きる」 英国とEUは今回の法的な離脱で一切の縁が切れるわけではない。12月末までは「移行期間」が設けられていて、この11か月の間に英国はEU加盟各国と通商協定をまとめなければならない。この間は、激変緩和措置としてこれまでと同様、関税がかからないEUの「関税同盟」の枠組みにとどまることになっている。 「激変緩和措置(移行期間)を打ち切った場合に何が起こるかというと、英国が『関税同盟』から出ていくことになり、英国とEUがFTA(自由貿易協定)を結ばない限りは、その時点からWTO(世界貿易機関)に基づく関税が発生することになる」 しかし、EU加盟国など多くの国との通商交渉を1年弱でまとめ上げるのは現実的には難しいと土田氏は語る。「経験則的に、1つの国と通商協定を結ぶのに最低でも2、3年はかかる。英国が1月末までEUに加盟していたとはいえ、両者が1年間で交渉を成立させられるとは思えない」。EU側も同様の見方をしており、6月に移行期間延長の是非について英国とEUで協議することになっている。しかし英国のジョンソン首相は現時点では延長の必要はないとの認識を示している。 そうなると、移行期間は延長されず、年内に通商交渉もまとまらないまま、合意なき離脱と同じ状況に陥る可能性があるというわけだ。